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統一地方選・「維新躍進」の”特殊性”<著述家・菅野完>

―[月刊日本]―

「維新の躍進」はあったのか?

日本維新の会

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 5月8日、立憲民主党の中堅若手議員ら複数が、泉健太代表ら執行部に対し、来るべき衆院選での候補者擁立数を増大するよう緊急提言を行ったという。  提言の内容は「衆議院の289選挙区において、200以上の候補者を擁⽴せよ」「20代から40代の次世代を担う若者の候補者を積極擁⽴せよ」「ジェンダー平等推進のために⼥性の候補者を積極擁立せよ」と、概ね真っ当なもの。あまりにも真っ当で、この提言内容そのものには報道価値は微塵もない。  だが報道各社は総じてこの件を記事化している。理由は単純だ。この提言内容をそのまま実行すれば、来るべき衆院選で立憲民主党と維新の競合が多発することは不可避となる。メディアとしては「統一地方選挙における維新の躍進に危機感を抱いた」と書きたいのだろう。  しかし果たして、4月末の統一地方選挙や知事選挙、そして衆参4補選の結果を「維新の躍進」と評価して良いのか甚だ疑問だ。なにも「維新は勝ったとは言えない」と言いたいわけではない。明確に断言しよう。維新は勝った。しかし先般の統一地方選挙と知事選および衆参4補選の「結果」と「経緯」を見ていくと、維新に限って言えばその勝ち方に「全国的な傾向」が存在しないように見えると言いたいのだ。

東京都内の維新の勝ち方に見る「特色」

 まず、維新にとって初の本格的な東京進出となった東京都内の選挙から見ていこう。先般の統一地方選挙の後半戦では、東京都内の合計41自治体で区議会議員選挙・市議会議員選挙が行われた。維新はこのうち37自治体に合計69名の候補者を擁立し66名の当選者を出している。勝率95・65%は主要政党のうち公明党の96・76%についで二番目の高さを誇る。  中でも目を見張るのは維新のトップ当選者の多さだ。実に11の自治体で維新の候補者がトップ当選を占めるに至っている。トップ当選者の数を全当選者数で割った比率(「1位当選者比率」と仮に名付ける)を見ると、維新は15・94%と2位以下を大きく突き放している。これらの数字を見れば、維新は東京都内で大躍進を遂げたと言っても差し支えはなかろう。  さらに維新の勝ち方にも特色がある。先に挙げたように、維新は今回の統一地方選挙で東京都内に66名の当選者を出しているが、これらの当選者がほぼすべての自治体で、同じような順位で当選しているのだ。維新の候補者がトップ当選を果たした自治体では、その他の維新の候補も2位や3位などで上位当選を果たしている。トップ当選者を出さなかった自治体でも、中位や下位で固まって当選している様子が目につく。  こうした維新特有の「勝ち方」に類似しているのが公明党の「勝ち方」だろう。公明党と維新の勝ち方は「勝率の高さ」と「同じような順位で当選する候補者の多さ」で極めて似通っている。  公明党がこうした勝ち方を収める理由は容易に推測できよう。公明党は創価学会信者の組織票を機械的かつ人為的に「票割り」することができる。「その自治体に居住する信者の数」に「信者の投票率」を掛ければ「その自治体における信者の票」が読め、その「信者の票」を「最低当選ライン得票数」で割れば、「その自治体で、公明党が当選できる議席数」のおおよその見当がつく。  この計算式に不確定要素があるとすれば「その自治体に居住する信者ではない一般有権者の投票率」の上下だけだ。一般有権者の投票率が上がれば「信者票」の比率は下がり、その逆では「信者票」の比率は上がる。  事実、公明党がこの計算を間違えた節が伺える選挙があった。練馬区議選だ。練馬区議選は2900~2800票のレンジに7名もの公明党の候補が綺麗に収まる結果となった。前回(平成31年)選挙の最低得票ラインが2700票だったため、公明党の練馬区担当者は今回の選挙でも「練馬区内の信者票」÷「2700票」という計算をしたのだろう。  だがこれは誤算だった。練馬区ではわずかながら全体の投票率が上昇したのである。そのため最低得票ラインが2900票に上昇した。結果、最低得票ラインを狙った7名のうち、4名が落選するという公明党にとって悪夢のような結果となってしまった。  いずれにせよ、公明党がこうした芸当ができるのは統制のとれた自前の大規模な組織があるからである。しかし維新にはそんなものは一切無い。無いにもかからわず、維新の得票結果はなぜか、あたかも組織票を人為的かつ機械的に割り算したような結果になっている。これは極めて不思議だ。
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加藤尚武 「正義の戦争」に歯止めをかけよ
副島英樹 米国は原爆投下の非を認めるべきだ
村田三平 核廃絶と脱原発こそ日本の歴史的使命だ
鈴木宗男 世界の平和都市・広島で戦争を煽ってはならない

特集②テロと民主主義の崩壊
内田 樹 民主主義への絶望がテロを生み出す
片山杜秀 なぜ五・一五事件は共感を呼んだのか
中島岳志 テロが「有効な手段」と認識されるようになった
「人を殺す自由」は誰にもない 横山孝平

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著者に聞く
『ハマのドン』(集英社新書)の著者・松原文枝さん

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