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なぜ大手メディアは「軍拡」路線を支持するのか?<望月衣塑子さんインタビュー>

―[月刊日本]―
 防衛費倍増・敵基地攻撃能力・ミサイル配備・米軍との一体化――その先にあるのは 本当に「安全」なのか。  なし崩しにされる平和国家の理念を前に、大月書店から緊急出版された『日本は本当に戦争に備えるのですか?:虚構の「有事」と真のリスク』。同書に寄稿した論客の一人である望月衣塑子氏に話を聞いた。
日本は本当に戦争に備えるのですか?

『日本は本当に戦争に備えるのですか?:虚構の「有事」と真のリスク』(大月書店)

軍拡を支持するメディア

―― 望月さんは本書で岸田政権とメディアの関係を批判しています。 望月 岸田政権は防衛三文書を決定して軍拡路線を突き進んでいます。このまま日本は戦争に向かってしまうのではないか。そうした危機感から先日、同志社大学教授の岡野八代さんを中心にオンラインシンポジウムを開催しました。その内容を一冊にまとめたのが本書です。岡野さんや私を含めて5人の学者やジャーナリストがそれぞれの立場から問題提起を行っています。  私自身は記者の立場から、まず岸田政権とメディアの関係を批判しています。岸田政権は敵基地攻撃能力の保有や防衛費の増額を決めましたが、一部のメディアはこうした軍拡路線を支持して煽っています。その象徴が、防衛三文書の策定に向けて行われた「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」です。  この会議には喜多恒雄・日本経済新聞社顧問(元代表取締役会長)、船橋洋一・元朝日新聞主筆、山口寿一・読売新聞グループ本社代表取締役社長が参加しています。  いずれもメディア業界の重鎮ですが、彼らは岸田政権による軍拡を積極的に支持しています。読売新聞社長の山口氏は「総理は防衛力の抜本的強化という歴史的な決断された」「メディアにも防衛力強化の必要性について理解が広がるようにする責任ある」と述べています。  問題は、有識者会議の議論とメディアの報道が連動していることです。たとえば、山口氏が「当面は外国製のミサイルを購入することも検討対象になる」(10月20日)と発言した後、読売は「トマホーク最大500発購入へ」(11月30日)というスクープを打ちました。また、山口氏が「自衛隊の隊舎など、防衛費から捻出するものは建設国債が充てられない」(11月9日)と発言した後も、読売は「自衛隊施設の整備費、建設国債1・6兆円充当へ」(12月13日)と再びスクープを出しています。完全なマッチポンプです。  もう一つ注意すべきは、メディアと経済界の関係です。山口氏は官民一体の「新しい形の資本主義を推し進める体制を作らなければならない」と主張し、日経新聞顧問の喜多氏も「民間企業が防衛分野に積極的に投資する環境が必要だ」と訴えています。岸田政権の掲げる「新しい資本主義」とは官民一体の軍産複合体を作り上げ、新たな「公共事業」として軍拡を推進することなのか。  読売新聞や日経新聞が軍拡の旗を振っている背景には、経済界の意向も働いているように感じます。実際、軍拡ビジネスはすでに水面下で進められています。政府は4兆円の予算で全国の自衛隊基地に核攻撃に備えた地下シェルターを整備する方針を示していますが、今年の通常国会が始まる前から90社以上のゼネコンに発注の具体案を説明していた事実が明らかになっています。

ゲーム感覚で戦争を報じるな!

―― こうした状況は危険です。 望月 メディアが政府の軍拡を支持して煽れば、日本が誤って戦争に向かう危険が高まります。かつて日本はメディアが戦争を煽った結果、勝ち目のない戦争に突入して多くの国民が犠牲になりました。その反省と教訓を忘れたのでしょうか。  メディアが軍拡を支持するような報道を続ければ、国民の感覚も麻痺していきます。最近ではメディアが「台湾有事が起きたらこうなる」というゲーム感覚で戦争を議論する番組を放映し、視聴者の好評を博しています。まるで「戦争バラエティ番組」です。しかし、そこには「生身の人間が血を流して死ぬ」という戦争のリアリティが決定的に欠けています。メディアや国民だけでなく、政治家の感覚も麻痺しているのは、ウクライナに「必勝しゃもじ」をプレゼントした岸田首相の笑顔を見ても明らかでしょう。  メディアが軍拡を支持してゲーム感覚で戦争シナリオを報道し、国民が半ば娯楽としてそれを消費する。こんなことが続けば、戦争が起きることが既定路線になり、それが当然視されてしまうのではないか。  本来、メディアの使命は権力を監視することです。岸田政権が軍拡路線に舵を切ったいまこそ、メディアはその問題点を徹底追及すべきです。中国が台湾に侵攻する可能性はどれほどあるのか? 大量破壊兵器の存在をでっち上げてイラクに戦争を仕掛けた米国と一体化すれば、日本は誤った情報に基づいて戦争に巻き込まれるのではないか? 米国の情報に基づいて敵基地攻撃能力を行使すれば、日本が先制攻撃を行う危険性が高まるのではないか? 批判すべき問題点は山ほどあります。私自身、権力を監視してその問題点を伝えていきたいと思っています。
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軍拡より生活!
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げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

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月刊日本2023年5月号

特集 米中覇権交代へ 対米従属では生き残れない
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