佐藤くんもさすがに周囲の空気を察し、自分なりに謝罪したそうですが、彼女たちのもてあそばれた感はそう簡単には収まらず、中には精神的なショックで出社もままならない女子もいたそうです。 　さらに悪いうわさが富田さんの耳に入り、いろいろと調査していくうちに富田さんは今回の件はただごとでは済まされないと感じたそうです。 「僕、もともと体育会系ということもあって、同じ体育会系だった佐藤くんの行動についてあまりにも目に余るものだと感じたんです。なのである日、彼を部長室に呼び出して厳重に注意をしました。でも、自分でもやりすぎたかなって思うくらい怒鳴っちゃって、かなりの暴言をはいたのを覚えています」 　ハラスメントに体育会系かどうかはあまり関係ない気もしますが、そのまま意気消沈した佐藤くんはその場を後にしたそう。そして、富田さんは翌日の佐藤くんの行動に驚嘆することとなったといいます。 「次の日、仕事始めにメールをチェックしていたら、いきなりドアをノックする音とともに佐藤くんが部長室に入ってきたんです。彼は僕の目を真っすぐに見ながら胸ポケットから辞表を取り出し机に置くと、軽く一礼をして部屋を出ていきました。一瞬何が起こったのか理解できなかったのですが、昨日の叱責が原因なのかと……。確かに僕もかなりの剣幕で大声を出して注意していましたからね」 　富田さんは、佐藤くんの辞表をいったん預かり、受理する前に専務を通して社長に相談することにしたと言います。 「辞めるまで行かなくても……と最初は思っていたのですが、佐藤くんの問題はすでに社内でも共有されていて、専務からも社長からも受理を促されたんですよね。本人も自ら願い出ているわけだし、会社的にも辞めさせる方向でいいだろうって感じで」