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“日本一忙しい役者”のひとり、佐藤浩市の仕事論「情熱を枯らさないためには、休むことも必要」

情熱を枯らさない。それが一番難しい

映画『春に散る』

映画『春に散る』(公開中) ©2023映画『春に散る』製作委員会

――長く続けていくうえで「仕事をしない」も不可欠と。 佐藤:モチベーションをどう保っていくかは、ひょっとしたら一番難しい課題かもしれない。若い頃は、外的なものがモチベーションに繋がってくるわけじゃないですか。年齢を重ねて、映画を観る本数も減ってきているし、観て刺激を受けること自体が少なくなってきた実感もある。そういうなかでも継続的に仕事への情熱を枯らさないためには、先ほどお話ししたようにメディアに出ない時期を設けることも必要。演じない期間があることが、“飢え”になり、情熱を絶やさないことに繋がる。 ――どういう役や作品のオファーが来るかでも、モチベーションが上昇することは多そうです。 佐藤:そうですね。そういう意味では贅沢ですが「面白そうじゃん」と思えるかどうかは、僕にとってはすごく大きいです。 ――『春に散る』に参加されるうえでは、どういった部分に面白みや新鮮さを感じたのでしょうか。 佐藤:『春に散る』はともすれば、観せ方として「負け犬たちが努力を重ね、人生を逆転させていくサクセスストーリー」といった王道パターンに陥ってしまう可能性のある題材。いい部分を残しながら、どう角度を変えていろいろな人に観てもらうかにチャレンジしがいを感じました。 ――本作の製作発表時、「世代が違うと異人種であるかのように距離を置く人たちもいる昨今、世代を超え拳ひとつで明日の階段を上ろうとする漢たちの映画に」と語っていました。翔吾役の横浜流星さん含め、下の世代と接する機会も多いかと思いますが、どのようにコミュニケーションを図っているのでしょう。 佐藤:まず、相手がどういうタイプかを自分が最初に見極めないといけない。ふっと懐に入ると引いてしまうヤツもいれば懐に入ってほしいヤツもいるし、懐に呼びこんでほしいヤツもいる。そうした相手が心地よい距離感を探るところから始まります。役との向き合い方にも似ていますね。『春に散る』でいうと、観せ方の部分でも一番のキーは流星が翔吾としてガッと懐に入ってきてくれるかどうかでした。役としてだけじゃなく、彼自身のパーソナルな部分も含めて飛び込んできてくれたと感じたときに「いける」と確信しましたね。お互いに横並びになって同じ方向を見ているなと思えたし、僕に嘘があったらそういうふうにはなれなかったとも思います。 ――劇中で広岡と翔吾は疑似家族のような関係を築いていきます。「家族」というテーマをどう受け止めましたか? 佐藤:この作品には、満たされている人が出てこないんです。みんな自分の背景を語らないけど、広岡も翔吾も佳菜子(橋本環奈)も佐瀬(片岡鶴太郎)も、みんな孤独感を抱えている。だからどうしたって疑似家族を求めてしまう弱さを持ちながら、それがエセっぽいということもわかっている。家族が欲しいと思いながら、それを口にした瞬間にどれだけ格好悪いかを自覚している――このアンバランスさが面白かったです。だからこそ、翔吾が広岡にかける「俺の親父になってよ」というセリフは流星にとってもハードルが高いセリフだったかと思います。そのシーンの撮影日に「恥ずかしくてしょうがないよな、俺もそう思うよ」と流星と話しました。でもあいつは自分の中で整理をして、ちゃんと乗り越えてきた。翔吾という役としては恥ずかしくてしょうがないけど、流星という役者としてはこれを言わないと駄目なんだと、役/役者の両方でしっかり追い込んで答えを提示してきたんです。
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人生のたたみ方は変化していく
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物書き。’87年福井県生まれ。映画を中心に、アニメやドラマ、本、音楽などの取材やコラム執筆、イベントMC等を手がける。「装苑」「CREA」「CINEMORE」「シネマカフェ」「FRIDAYデジタル」「映画.com」などの雑誌、Web媒体に寄稿。ツイッター@SyoCinema

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