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“日本一忙しい役者”のひとり、佐藤浩市の仕事論「情熱を枯らさないためには、休むことも必要」

人生のたたみ方は変化していく

Koichi Sato_02――原作者の沢木耕太郎さんは、「私はこの『春に散る』という小説で、ひとりの初老の男に、生き切り、死に切れる場を提供しようとした」とおっしゃっています。佐藤さんご自身は、人生のたたみ方を意識されていますか? 佐藤:言葉としては死生観というけど、普通は生死だから、本当は“生死観”だと思うんですよ。なんで変わるんだろう。死は未来のことだから先に来るのかな。不思議だね。何をもって死を受け入れるか……難しいですよねぇ。準備があったほうがいい場合もあるし、準備がないほうがいい場合もある。でも、それを求めて、たためられたらいい。 ――求めて、たたんでいく……。 佐藤:たたみ方にしても死生観にしても、その都度、変化していくものだと思います。例えば病気をする前と後では明らかに違うはずですし、一方で年齢が上がっていくにつれて変化することを受け入れがたくなる側面もあります。でも僕は変化できれば面白いと思いますし、変化を楽しんでいきたいと思っています。 ――変化をポジティブに捉えることは皆ができることではないでしょうから、素敵ですね。 佐藤:例えば免許証の返納にしろ、極論を言うと「お前はもうすぐ死ぬんだから迷惑をかけるな」と同義に捉えてしまうと、返納という行為よりそのこと自体に拒否反応が出てしまう。社会にしろ政府にしろ、最初から匕首を突きつけるような変化を要求するから、受け入れがたくなってしまうのではないでしょうか。変化をポジティブに受け入れられたり喜べたりするような制度やサポートがあれば印象は変わっていくのかもしれませんね。 ――その点、本作では広岡と翔吾がぶつかりながら変化する姿が前向きに綴られます。 佐藤:回帰することは懐かしむだけで終わりがちだけど、立ち返ることで前進もできる。広岡も翔吾も、知っていたはずのリングにもう一度帰ってきたら思いのほか発見が多く転がっていたわけです。「回帰することで前進できる」ってこと、しっかり俺も忘れてましたね。  変化を楽しみ、時に立ち止まり、振り返る。40年以上も役者道を走り続けてきた男が示す”生死観”はいたってシンプルだった。
Koichi Sato 1960年、東京都生まれ。日本映画界を代表する名優。『64』(’16)で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。窪田正孝との再共演作『愛にイナズマ』が10月27日に公開。音楽活動では、10月7日に恵比寿ザ・ガーデンホールにて「役者唄」を開催 取材・文/SYO 撮影/森山将人 ヘアメイク/及川久美 スタイリング/喜多尾祥之
物書き。’87年福井県生まれ。映画を中心に、アニメやドラマ、本、音楽などの取材やコラム執筆、イベントMC等を手がける。「装苑」「CREA」「CINEMORE」「シネマカフェ」「FRIDAYデジタル」「映画.com」などの雑誌、Web媒体に寄稿。ツイッター@SyoCinema
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