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“家庭を持ちたくない”男性が見た父の背中…「借金1000万円を抱えて姿を消した」

まったく家庭を持ちたいと思えない

 40歳を手前にした鈴木氏の人生のうち、父親と過ごした時間は半分にも満たない。だが氏の人生観を形成するうえで父親は大きく濃い影を落とした。 「現在は収入も安定しているし、家族を持っている同年代も多いのですが、まったく家庭を持ちたいと思えないんです。自分が父親になる絵が浮かばず、過去にも交際相手から結婚を迫られて拒否してしまった経験もありましたね。  それから、電子マネーなどのように貨幣の形をなさずにデジタルのやり取りで残高が増減するものを扱うのに抵抗が……。容易に手を出して、破産するんじゃないかと不安になるんです。Amazonや楽天も代引きにしていますし、Suicaも持っていません。不便ですが、そういう生き方をしています」

今だったら普通に話せるような気も…

 亡き父の余波に煽られながらよろめく自分の人生について、鈴木氏はこんな感想を漏らした。 「何でもかんでも父親のせいにするつもりはありません。私は大学3年生のころに心理的に負担を感じて中退し、そのあと働きました。このように、仮に父親の一件がなくても、自分は生きるのが上手じゃないんだなと思う場面はたくさん浮かびます。  おかしな話ですが、妙な親近感を父親に覚えてしまうんです。何のためにした借金で、それで家族も何も繋がりを絶って、本当はどうしたかったのか、何もわからない。けれども、全部から逃げたくなったり、何もかもどうでもよくなる気持ちは、わかるような気もするんです。  今だったら普通に話せるような気もするんですけどね。まずは『下手こいたな、あんた』って言ってやりたいですね」  愛憎は片方だけで膨張せず、表裏で育つ。自らの欠陥と、かつて家族に惨状をもらたした憎き父親に欠損していたものの形が符合するとき、たとえまやかしだとしても、父親の残像が愛しく思えるのかもしれない。 <取材・文/黒島暁生>
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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