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精神科への入退院48回、服役生活3年間…自暴自棄だった青年が“人のために生きる”ようになるまで

依存症は「完治するものではない」からこそ

渡邊洋次郎氏

アメリカの自助グループにて

 自ら望んで生き直し、生命を大切にすること。自滅的だった生活を内省し、悩みを同じくする他者に寄り添うまでに転身した渡邊氏は、依存症という病とその対応策についてこんな見解を持つ。 「依存症は、病気のなかでも慢性疾患に近いと思っています。完治するものではなく、あくまでその病気と向き合いながら過ごしていくもの、という認識です。  その際に、自助グループの存在は非常に効果的だと私は考えていて。なぜなら、自助グループの多くは、『立ち直りたい』という希望を抱いた人を無条件に仲間として歓迎し、社会におけるその人の肩書などをお互いに詮索しません。その人がその人のままでいられる空間です。  9月にもアメリカの自助グループに参加しましたが、日本から来た私を温かく受け入れてくれて、情報交換をさせてもらいました。彼らも私の社会的な立場を聞かないし、私も彼らについて調べたりしません。ただ依存症を克服する同志であるという事実があれば足りるからです

正論を押し付けるのではなく…

 さらに渡邊氏は、この自助グループの存在が自身の幼少期に感じていた心の欠損を埋めることに一役買っているのではないかと分析する。 「私はおそらく両親との関係性のなかで、今でいう愛着障害があったのではないかと考えています。たとえば赤ちゃんはどれだけ思いきり泣いてわがままを伝えても親から受け入れられ、精神的な基盤を作ります。やがて社会に出て否定される経験をしても、そういう土台のある子は精神的に総崩れになりにくいでしょう。しかし、私にはそれに類する経験がないため、常に情緒が不安定でした。  自助グループは、条件をつけないでその人を受け入れます。この構図は、本来あるべき親子関係と似ていると私は思います。薬物は犯罪ですが、社会規範に照らして正論を押し付けるのではなく、まずはその人自身を受け入れることによって、本人が変わっていく可能性があると思うのです
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周囲から「生きろ」と言われて思ったこと
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ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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