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精神科への入退院48回、服役生活3年間…自暴自棄だった青年が“人のために生きる”ようになるまで

周囲から「生きろ」と言われて思ったこと

 薬物事犯にかかわらず、犯罪行為に対する世間の視線は冷たい。すべての過ちを自己責任に帰す風潮さえある。薬物使用やそれに伴うさまざまな形での加害の当事者として、渡邊氏は何を思うのか。 「私の行動によって被害に遭われた方、不快に思われた方に対しては、心から申し訳ないと思っています。あの当時、私は自分の気持ちを率直に表す術を持ちませんでした。楽しく馬鹿な話をしているときは周りに人がいるのに、寂しさを口にすればみんな引いていきました。それが辛くて、本心を言わずに行動した結果、薬物やアルコールに逃避してしまいました。  実際のところ、『死にたい』と思ったことは数えきれないほどありましたが、周囲からは『生きろ』と言われました。でも、誰のための『生きろ』なのかわからない状態が続きました。社会は、本音の弱い部分はなかなか引き受けてくれないのに、死ぬことは許してくれず、だんだん社会のために生かされているのではないかと感じるようになりました。  犯罪者となった人は、当人にしかわからない苦しみのなかでもがき苦しんでいると思います。その苦しみの部分には注目せずに、加害者となってから『そういう人間性のやつ』という扱いにして社会から切り離すから、他人事として矮小化され、理解が深まらないのではないかと思います。  薬物の使用を善悪で考えれば、悪であることは誰の目にも明らかです。表面的な議論に終始するのではなく、薬物使用に走らざるを得なかった背景について考えるきっかけを持ってもらいたい。そういう思いで、講演活動や書籍の執筆を行っています」  依存症は当事者の力の及ばない範囲に影響し、身体活動や精神活動は勿論、社会性などの基軸を死滅させる。かつて渡邊氏が刑務所で見たと話す心臓の幻影。精神の屍と化した氏が蘇って紡ぎ出す言葉は、その心臓のごとく収縮を繰り返して聞く者を再生へと導く。 <取材・文/黒島暁生>
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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