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中村ゆり、アイドルから俳優になって20年。「孤独に生きてきた、市子のような人に寄り添いたい」

2015年の舞台版から『市子』を観ていた

――プロポーズされた翌日に突如失踪した、あることを抱えながら生きてきた女性の壮絶な半生を描く『市子』。この作品は舞台版が先にあったとか。中村さんはその2015年の舞台版からご覧になっていたそうですね。
『市子』より

『市子』より

中村:舞台を手掛けていた戸田(彬弘)監督と、もともと顔見知りで、「戸田さん、いま舞台やってるんだ」くらいの感じで、最初は観に行きました。そのとき、自分の琴線にとても触れたんです。言葉が正しいかは分かりませんが、描いている事実、テーマに興味を引かれて、観終わったあとにすごく調べました。再演のときには、事務所の社長を誘って観に行ったりしました。 ――そうなんですね。 中村:先ほどお話ししたように「孤独や寂しさの中にいる境遇の人に寄り添う」きっかけになれるのが、エンターテインメントの役割のひとつだと思っています。なので、その舞台版に出会えたときは、本当に衝撃でした。

演じること自体は苦しい作業が多い

――今回、舞台から映画版になったことで、スポットをあてた物語を、さらに多くの人に広めるきっかけになりますね。そして中村さん自身が、その一助になりました。 中村ゆり中村:思い入れがある分、脚本の段階から監督といろんなお話をしました。いい意味でムキになっている自分がいたので。なんならキャスティングにも口出ししたいくらいの気持ちだったんですけど(笑)、市子を演じた主演の杉咲花さんをはじめ、これ以上ない素晴らしいキャストの方が揃って、本当に素晴らしかったです。 ――市子の母・なつみ役で参加されています。冒頭のお話に合った「演じること自体はそんなに好きではない」は、今もあまり変わっていないのでしょうか。 中村:映画の現場や、映画に携わっている方たちのことは本当に大好きなんです。ただ演じるという現象自体をすごく好きと感じたことは、あまりないんですよね。苦しい作業のほうが多くて、演じていて、楽しいとか気持ちいいとかはあまり……。 それでも、すごく素敵な本に出会ったり、映画を観たりお芝居を見て、「うわー!」と心を動かされる瞬間があったり、「この役をやってみたいな」と思うことはあるんです。芸能界に入って長いですし、いまも仕事をいただけていることの奇跡をとても感じているので、俳優というお仕事のことは、すごく大事に思っていますし、好きなんです。 それから、やっぱり要所、要所で私を引き上げてくれる出会いがあって。それは役でもあるし、監督でもあるし、脚本でもあります。そうしたありがたい出会いによって、自分の心が動かされる瞬間があるからこそ、私は演じることを続けていられるのだと思います。
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あのショッキングなシーン
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ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):@mochi_fumi

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