更新日:2024年01月18日 21:04
仕事

デイサービスを運営する男性介護士が語る、高齢者介護の実情「お婆さんにキスを迫られたことも」

38歳で高齢者デイサービス事業所「二本木交茶店」を開所

二本木交茶店

東京都西多摩郡瑞穂町にある「二本木交茶店」

 専門学校を卒業した坂本氏は、特養老人ホームに就職し、7年ほど勤めた後に在宅介護の会社で8年働いた。人間関係のもつれと自分なりの介護に対する思いが強くなっていたことから退職する。転職活動を始めると、周囲からは「会社を立ち上げろ」と勧められた。誰かの下で働くことがキツく感じていた坂本氏は、特養老人ホーム時代の2歳下の部下を相棒に、現在の「二本木交茶店」を立ち上げる。  現在で事業所を立ち上げて12年になるが、当初からその運営スタンスはあまり変わっていない。 「どんな事業所にしていこうかというプランはありませんでした。一人利用者が来たら、その一人を看よう。10人きたら、一人×10人だと思っています。利用者も職員も含め、一人ひとりが幸せになる施設にしたい

恋する認知症のお婆さんたち

利用者と談笑する坂本氏と職員女性

 デイサービスの現場の取材に訪れると坂本氏に熱い視線を送る女性がいた。女性は90代の利用者だが、その表情はまるで恋する乙女だ。 「僕は昔からお婆さんに好かれます。社長の僕をとても尊敬してくれるのですが恋のようだなと思うことはあります」  認知症の高齢者は「何も分からない人」ではない。高齢者施設を利用していても、豊かな感情をもっている「人」だ。何歳になろうと、女性なのだと感じる表情だった。取材中も、坂本氏にアイドルのファンかのように握手を求め、頬を赤らめている。  メディアではどちらかというと、高齢者のそういった感情を、マイナスな面として報じることが多い。だが、女性の方が男性よりも平均寿命が長いので、お婆さんたちは介護施設を利用するようになっても元気だ。当然、高齢女性が男性介護職へ恋心を抱くこともある。2人が楽しく談笑している姿は、年齢差のある恋人のようにも見えた。ご本人が高齢なこともあり「社長のような方に握手してもらえるなんてもったいなくて手を洗えない」と表現していたし、その心中は本人のみ知ることなのだが。
次のページ
お婆さんにキスを迫られたことも
1
2
3
4
立教大学卒経済学部経営学科卒。「あいである広場」の編集長兼ライターとして、主に介護・障害福祉・医療・少数民族など、社会的マイノリティの当事者・支援者の取材記事を執筆。現在、介護・福祉メディアで連載や集英社オンラインに寄稿している。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1

記事一覧へ
おすすめ記事