「吃音のハンデの克服には難関医学部に合格するしかない」吃音を持つ医師が“悩み続けた”半生を告白
吃音(きつおん)は幼少期に発症することが多いが、脳の障害やストレスなどによって後天的(10代後半から)でも発症することがある、話しはじめの言葉に詰まったり、言葉がすらすら出てこなかったりする障害だ。吃音に悩みつつも、2019年に目黒区で「目黒の大鳥神社前クリニック」を開院した、内科医で消化器内科医の北村直人院長に話を聞いた。
――北村氏は、昭和46(1971)年に京都府京都市に産まれ、現在、53歳だ。医師になったのは、呼吸器内科の開業医だった、祖父の影響が大きかった。北村少年には、幼稚園に入る前から、ひどい吃音があったという。
北村直人氏(以下、北村):幼稚園に行くまでは、他の子どもとの接触がなかったためか、自分が周囲と違うことには気づいていませんでした。幼稚園に入ると、周りの子どもと、自分のしゃべり方が大きく違っていることに気づきました。周りの子どもは不自由なく話せているのに、自分は話せない。このため、登園拒否をするようになりました。
――仮病を使ったこともある。母が無理やり幼稚園まで連れて行っても、入るのを嫌がり、園長先生と二人がかりで、無理やり中に入れられることもあった。
北村:2歳違いの兄も同じ幼稚園で、1年間、同じクラスでした。兄を頼って近づくと「お前、一緒にされるからあっちいけ」「近づくな」と、赤の他人のような感じに扱われました。幼少時から、生きていることが辛いと感じることがあり、実は幼児期に何度か自殺しようとしたこともあります。ある時、親に見つかり、酷く叱られました。親や先生から、「あなたは優しい子だし、吃音がある分、病気の人の気持ちが分かるいい医者になれる」と言われ、その頃から医者を目指すようになりました。
――小学校からは、地元の公立だと、吃音でいじめられるのではないかという不安があり、私立に進学する。中学受験では、地元京都の進学校では面接があることから、塾の先生から「北村君は、面接で落ちる」と言われ、勉強して、他府県にある、より難関の面接がない 中学を受験し、片道1時間半かけて通学した。幸い、小・中学校時代は、大きないじめに遭うことはなかった。だけど、国語の授業の朗読や学習発表会など、苦痛と感じることは何度もあった。
北村:吃音から逃れることはできませんでした。選挙で生徒会会長に選ばれるも、生徒会会長は議長でもあったため、吃音の恐怖から辞退し、副会長にしてもらいました。副会長で担当となった小学校の運動会の宣誓は、低学年の頃は憧れていたにもかかわらず、やはり人前での吃音で怖くなり、結局辞退しました。小学校側が配慮してくださり、ある学年の学習発表会では、舞台に立つのではなく、マイクで、組や演題などをアナウンスする係を担当させていただいたこともあります。マイクに向かって、原稿を読むだけのことですが、原稿は暗記し、原稿を見なくてもよいように準備もしたのですが、それでもどもってしまいました。会場からの笑いも聞こえました。マイクに向かって呼びかけるなどは、今でも苦手です。
小学校の学習発表会で、同級生の親がビデオ録画してくださったものをクラス内で視聴する機会がありました。その発表では、私はどもっており、そのシーンも録画されていました。同級生の多くが笑い、何人もが私のほうを見ましたが、担任も一緒になって笑い、私のほうを見ていました。実は、自分がどもる映像を見たのは、それが始めてでしたので、人からはこう見えているのか、と思いましたが、同級生に加え、担任までも笑ってこちらを見たのは、やはり、ショックでした。 抗議のつもりで、小テスト回答後、回収前に答案を消して何度か白紙で提出しました。内申点が気になり、途中でやめましたが。
中高時代、「ドモルガンの法則」についての授業があった際、同級生から「え?直人の法則?」と言ってからかわれました。同級生はまだしも、数学の教師が一緒になって笑って私を見ていました。教師に腹が立った私は、学校への抗議のつもりで、中間テストを白紙で提出しました。そして、期末試験では満点。学期末の面接で「真面目にやれ」と担任から言われたのですが、何故白紙答案を出したのか、メッセージって伝わらないんだな、と思った記憶があります。そして、内申点が下がるだけで、意味がない、むしろマイナスだった、と悟りました。
幼稚園で周りの子どもとの違いに気づいた
担任の先生からも一緒に笑われて…
立教大学卒経済学部経営学科卒。「あいである広場」の編集長兼ライターとして、主に介護・障害福祉・医療・少数民族など、社会的マイノリティの当事者・支援者の取材記事を執筆。現在、介護・福祉メディアで連載や集英社オンラインに寄稿している。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1
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