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「障害は個性ではない」。吃音を持つ開業医が伝えたい“あきらめずに悪あがきすること”の重要性

内視鏡検査のスペシャリストに

「目黒の大鳥神社前クリニック」北村直人院長(53歳)

――アメリカ、イギリスへの留学から戻り、がん専門病院の健診センターで医長を務めた後、2019年に、念願の夢だった自分のクリニックを目黒区に開業した北村氏は、東京都でもいち早く新型コロナウィルスの発熱外来を開き、地域医療に貢献した。発熱外来のために、本来の人間ドック・健診の自粛を続けていることもあり、病院経営は決して楽ではなく、クラウドファンディングをした時期もあったが、今年で開業5年目を迎える。 北村:吃音が原因で、患者様が離れたこと もあります。ただ、私は吃音があった影響で、大学病院に助教として所属中、大学の関連病院に週3~4回ほど、外来や内視鏡検査で外勤が割り当てられたのですが、医局長の采配で私には外来ではなく、内視鏡検査の外勤のみが充てられました。内視鏡検査の実績は早くから数多く積むことができました。内視鏡検査は医師1人で行い、検査中に話す必要もないため、吃音は問題になりません。吃音が出なければ、何の症状も出ないのです。 ポリクリ実習でも、外科や眼科の実習で、手先が器用だと言っていただけることが多かったのですが、勤務先のスタッフから、先生は上手ですね、器用ですねと言ってもらえることも多く、ある健診クリニックでは、「(鎮静剤を使わないために、)いつもはつらいのに、先生の検査だとつらくないので、次回から先生を指名したい」と言って、翌年から私を指名してくださる方々が増えたり、ある病院では、就任して2~3か月たったころに、「今度の先生の大腸カメラはつらくないと聞きました」と遠方から検査を受けにきてくださる方が何人もいらっしゃいました。 有明病院の健診センターでも医長を務めさせていただきましたが、残念ながら、開業後、外来での検査の説明で吃音が出たことで、検査のカメラが不安だと、キャンセルされたことがあります。しゃべらなければ吃音は出ないですし、けいれんなどが起きるわけでもないのですが、残念に思います。

開業することは本当に大きな賭けでした

――それでも開業に踏み切ったのは、北村氏にとって「大きな賭けだった」という。 北村:吃音のある私にとりまして、出身大学である慶應義塾大学の医局に属しながら、その関連病院で働くことは、いろいろな意味で医局に守っていただけていました。中には、身体障害者扱いされたケースもありますが、実際に試しで申請してみたところ、身体障害者と認定されたわけですから、事実を言われていただけと言えますし、大抵は、医局の先輩方が私の吃音、コミュニケーション不足を補ってくださっていました。 開業の道を選択する、ということは、そうした保護から外れることを意味します。医局から派遣された関連病院の勤務では、あくまでも、大学から派遣ということ、また、地方の基幹病院ということもあり、大学や病院の看板がありました。開業すると、こうした看板はなくなります。大きな借金を背負って新規開業することは、吃音のない医師にとっても賭けではあると思いますが、吃音のある私にとって、開業するということは、本当に、本当に大きな賭けでした。ですが、「先生が主治医で良かった」と受け持ち患者様が言ってくださっていたり、基幹病院で勤務中に開業医へ逆紹介をしようとしても、「先生の外来に通いたい」と言ってくださる患者様も多く、内視鏡検査も自信がありましたので、将来のこと、自分の理想とする医療のことを考え、開業に踏み切りました。
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吃音があることで生じた実生活での苦労
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立教大学卒経済学部経営学科卒。「あいである広場」の編集長兼ライターとして、主に介護・障害福祉・医療・少数民族など、社会的マイノリティの当事者・支援者の取材記事を執筆。現在、介護・福祉メディアで連載や集英社オンラインに寄稿している。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1

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