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『レジリエンスの時代 再野生化する地球で、人類が生き抜くための大転換』 著者のジェレミー・リフキンさんに聞く

絶滅危惧種としての人類

―― 「レジリエンス」を日本語に翻訳するのが難しいのは、日本にレジリエンスに対応する概念がないからではないでしょうか。日本人はしばしば、日本は自然を愛する国だなどと自画自賛することがありますが、実際は自然破壊を繰り返しており、自然への適応からかけ離れていると言わざるを得ません。 リフキン この半世紀の間、アジアが台頭するにつれ、地球に対する強奪や搾取の度合いが増してきたことは否定できません。しかし、レジリエンスが東洋、とりわけ東アジアの哲学や宗教と親和性が高いことは確かです。  西洋では地球は全知の神からの贈り物であり、神はアダムとイヴとその子孫に地球の支配を認めたとされています。他方、東洋の宗教や哲学はもっと控えめで、人類は自然の支配者ではなく一部分であり、地球上に存在する、あらゆる種が恩恵を受けている他の無数の主体に、文明の仕組みを絶えず調和させなければならないと考えます。  現在の東洋にはこうした考え方から若干離れてしまった部分があるかもしれませんが、仏教や儒教、神道、道教、ヒンズー教といった東アジアに広がる宗教には、自然に調和して適応するという姿勢が根強く残っています。すでに「進歩の時代」は死に体で、「レジリエンスの時代」への移行は避けられません。その際にこうした宗教や哲学を持つ東洋の役割は大きいはずです。私はそこに期待しています。 ―― 確かに日本では自然破壊が進む一方、若い世代を中心に自然を守ろうとする人たちもいます。これは新しい動きであり、社会運動や政治運動が盛り上がらない近年の日本では珍しいことです。 リフキン Z世代やミレニアム世代と呼ばれる10代から30代くらいの若者たちは、「進歩の時代」の人類とは「種」が違うと言ってもいいと思います。彼らは国を問わず、自分たちのことを絶滅危惧種だと見ています。  しかし、もう終わりだとか手遅れだと絶望する必要はありません。私たちの祖先のヒト族(ホミニン)は、約10万年続く氷河期と、1万~1万5000年の温暖な間氷期が繰り返される不安定な気候条件の中を生き延びてきました。それは、適応能力があったからです。彼らは手指を用いて、どんな動物よりも器用にものをつくりました。また、情報を共有し、知識を生み出すこともできました。さらに、共感をつかさどるミラーニューロンによって、他の人と喜びや悲哀を共感し、協力関係を築いていました。  人間は地球上でも有数のレジリエンスを持つ種です。決して弱い存在ではありません。若い人たちは自信を持って、「進歩の時代」から「レジリエンスの時代」への転換を進めていただきたいと思います。(11月22日 聞き手・構成 中村友哉) ジェレミー・リフキン 経済社会理論家。欧州連合、中国、メルケル独首相をはじめ、世界各国の首脳・政府高官のアドバイザーを歴任。経済・社会・科学技術を分析し、未来構想を提示する手腕への評価が高く、アメリカ政府の政策形成にも大きな影響力を持つ。『限界費用ゼロ社会』(NHK出版)、『エイジ・オブ・アクセス』(集英社)などが世界的ベストセラーに。1980年代から気候変動の危機を訴えるなど、先見性にも定評がある。 <初出:月刊日本2024年1月号
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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月刊日本2024年2月号

【特集①】自民党に政治改革ができるのか
石破 茂 全自民党議員よ、「政治改革大綱」を拳拳服膺すべし
山崎 拓 新総裁は無派閥から出すべきだ
郷原信郎 政治資金規正法を抜本改正せよ
倉重篤郎 究極の政治改革とは何か
高田昌幸 「陸山会事件」を彷彿とさせる自民党裏金報道

【石橋湛山生誕140年】
村上誠一郎 権力と戦い抜いた湛山に学ぶ

【特集②】シリーズ日本の〝亡国に至る病〟第一回 対米従属という病根
進藤榮一 対米自立の鍵はアジアにあり
ロマノ・ヴルピッタ 日本よ、アジアにこそ目を向けよ

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