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参議院の歪な選挙制度。国会は最高裁判決を真摯に受け止めよ<著述家・菅野完>

―[月刊日本]―

「両睨み」の判決

国会議事堂 筆者がしつこくおいかけ続けている参議院の選挙制度について、2023年10月18日、最高裁の判断が示された。  2022年7月挙行の参議院通常選挙に関し、いわゆる「1票の格差」が最大で3.03倍であったことが問われた裁判だ。最高裁判所大法廷の戸倉三郎裁判長は判決で、「(参院合区制度導入以降)選挙区間の最大較差は3倍程度で推移しており、有意な拡大傾向にあるともいえない」とした上で、「本件選挙当時、平成30年改正後の本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない」との判断を示した。つまり「合憲」判断だ。  しかしながら判決文では「国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させる選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であること等を考慮すると、較差の更なる是正を図ること等は喫緊の課題というべきである」とも指摘し、「立法府においては、より適切な民意の反映が可能となるよう、社会の情勢の変化や上記課題等をも踏まえながら、現行の選挙制度の仕組みの抜本的な見直しも含め、較差の更なる是正等の方策について具体的に検討した上で、広く国民の理解も得られるような立法的措置を講じていくことが求められる」と、これ以上、格差を放置しないよう〝クギ〟を刺してもいる。  選挙制度改革の議論は各派の思惑が錯綜する上に、参院は任期が6年と長期にわたることから議論の進捗が遅いことに理解を示した上で、昨年の参院選で特段の格差是正措置がとられなかったことをやむを得ざることとして「合憲」とするものの、しかしながら、これ以上の立法府の不作為は許し難いと注文をつけるという、いわば「両睨み」の判決とも言えるだろう。

「職務放棄」に近い最高裁の態度

 しかしながら「両睨み」ではあるものの、今回の最高裁判決は、過去の参院選の「1票の格差」が問われた裁判の判決といささか趣を異にしている。  今回、最高裁は、選挙制度改革の議論が性質上漸進的にならざるを得ない中、国会が一定の努力を払ってきたことに重きを置いて「合憲」との判断を下した。これは過去にはなかったことだ。  過去の判示では、まず「1票の格差」が定量的に許容できるかどうかを判断し、その上で、国会がその是正に努力を払ったかどうかが問われるのが通例であった。しかし今回はまず「国会が努力しているかどうか」が判断され、その上で、定量的に「1票の格差」が許容し得るかどうかが判断されたのだ。  この点については、本件裁判の原告側の二つの弁護士グループも深い憂慮の念を示している。判決後にそれぞれ開かれた、二つの原告側弁護士グループの記者会見の中で、たとえば山口邦明弁護士などは「国会の取り組みなど第2段階で検討すべきことを第1段階の判断の根拠としており、大問題の判決だ」と語気を強めて批判している。また、もう片方の弁護士グループの賀川進太郎弁護士も「『努力しているから違憲状態ではない』というのは、法律的に大変違和感がある」との見解を示した。  判決後に公表された日弁連の「会長声明」は「民意を反映すべき民主主義の過程そのものが歪んでしまっている場合にこれを正すことは、裁判所以外にはなし得ない。参議院議員通常選挙について、連続して3回にわたり、裁判所が果たすべきこの使命を十分に果たさず、国会の怠慢を容認してきたことは、民主主義の過程そのものの歪みを放置する判断であると言わざるを得ない」と、さらに厳しく最高裁の判断を指弾している。  過去数回にわたり本欄で「参院選挙の歪み」を指摘し続けてきた筆者の見解も、各弁護士グループおよび日弁連の見解と全く同じものだ。「国会の努力」などというものを根拠に明確な判断を回避した最高裁の今回の態度は、もはや「職務放棄」に近いとさえ言えるのではないか。そしてその「職務放棄」の結果、最高裁は過去の判決で積み上げてきた到達点を、大きく後退させたとさえ言えるだろう。今回の判決文を国会が「最高裁があそこまで合区導入による格差是正を多としてくれるとは思わなんだ。これで参院の『1票の格差是正』の議論は、いったん終わり。あとしばらくは放置でいいということだ」と、受け止めてしまわないかと深い憂慮の念を抱かざるを得ない。
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都道府県別選挙区の限界
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