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「2006年に閉園したテーマパーク」全国有数の温泉地に表現した“アメリカへの憧れ”が、廃墟になってしまった理由

全国に数多くあるテーマパーク。今もなお新しいテーマパークが生まれては人々を楽しませ続けている。しかし、そんなテーマパークには、あまり語られることのない側面が存在する。そんな、「テーマパークのB面」をここでは語っていこう。 栃木県・鬼怒川。全国有数の温泉地であるこの場所を車で走っていると、突然目の中に、奇妙な光景が目に入る。 アメリカの観光名所「マウント・ラシュモア」があるのだ。アメリカを代表する歴代四人の大統領の顔が掘ってある岩山で、アメリカでは民主主義の殿堂とも謳われている。そんなマウント・ラシュモアが鬼怒川にある。なぜだろうか。
ウェスタン村のラシュモア山

ウェスタン村のラシュモア山(JordyMeow CC 表示 3.0)

「ウェスタン村」の前身となった「ファミリー牧場」

ここにあるのは、「ウェスタン村」。いや、「あった」という方が正しい。「ウェスタン村」は西部開拓時代のアメリカをモチーフにしたテーマパークで、1982年に誕生した。「マウント・ラッシュモア」のレプリカをはじめ、園内にはアメリカで本当に使われていた蒸気機関車が走っていたり、西部開拓時代の保安官のロボットがいたりした。2006年に閉園するまで、長きにわたり同地の観光スポットの一つとなっていた施設である。 「ウェスタン村」を作ったのは、大高企業株式会社の大南兼一。彼は鬼怒川でホテルを営んでいた1973年、大高企業株式会社を作る。そして、1974年に「鬼怒川ファミリー牧場」を設立し、この施設が「ウェスタン村」の前身となる。大南はこの「ファミリー牧場」を始めるときから、「アメリカ」への興味は持ち続けていたようだ。大南を特集する雑誌には以下のような記述がある。 昭和18年、戦中生まれ。アメリカに対する独特の憧れを抱いて成長した世代の同氏が幼い時より夢に描いていたこと、それは、アメリカのフロンティアスピリッツ、西部開拓史を表現する施設をつくることだ。(『アミューズメント産業』23-2)

「アメリカへの憧れ」を具現化していく

「アメリカへの憧れ」は、ある時代の日本人が強烈に持っていた感情だが、大南もその一人だった。その思いが「ファミリー牧場」を作らせた。当初は何の変哲もない牧場であったが、同地の中に流れる砥川を、メキシコの「リオグランデ川」に見立て、それより手前をアメリカンタウン、それより奥をメキシカンタウンとする。 このように経営を続けるにつれて、牧場内でのテーマ性が高まってくる。同時進行でアトラクションも次々と導入。30分にわたるウェスタンショーやスリラーハウスなど、その姿は「牧場」から「テーマパーク」へと近づいていった。
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大南が“一人で作り上げた”「ウェスタン村」
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ライター・作家。チェーンストアやテーマパークをテーマにした原稿を数多く執筆。一見平板に見える現代の都市空間について、独自の切り口で語る。「東洋経済オンライン」などで執筆中、文芸誌などにも多く寄稿をおこなう。著書に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社)『ブックオフから考える』(青弓社)
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