更新日:2024年02月15日 09:35
お金

対照的なJALとANA。“人件費が高くなる”要因によって「明暗が分かれる可能性」が

国際線にはまだまだ伸びしろがある

 なお、国内線の旅客者数は両社ともに2019年の水準を回復しています。単価もほとんど変わっていません。すなわち、伸びしろがあるのは国際線なのです。  円安が進行して消費者が海外旅行を控えようとする動きはありますが、今後海外の渡航者数が2023年の水準よりも落ちるということは考えにくいでしょう。国際線の需要が高まると顧客の取り合いで値下げをする可能性はありますが、価格はかつての1.6倍に跳ね上がっています。  国際線の利用が、海外旅行ではなくビジネスであれば苛烈な価格競争に陥るとは考えづらく、航空会社の収益力は高まるものと予想できます。特にJALは発着枠に制限が設けられていました。それがなくなったため、経営破綻後の業績を大きく上回るポテンシャルを持っているのです。

JALにあってANAにない存在とは…

 ただし、JALとANAでは稼ぐ力に差が生じています。JALの2023年4-12月の営業利益率が10.1%、ANAは13.6%です。利益率に差が生じている大きな要因の一つが人件費です。  JALの売上高に占める人件費の比率は19.5%ですが、ANAは9.7%です。同じ航空会社にも関わらず、10%もの違いが生まれているのです。JALの人件費の高さは経営破綻する前から有名でした。破綻した後もそれが残っています。  人件費の高さの背景には、複雑で力の強い労働組合の存在があります。現在、パイロットや客室乗務員、整備士などの労使協調系組合が1つ、地上社員や客室乗務員などの職種別に分かれた、非会社系の組合が3つあります。  経営破綻した後、JALの経営陣は大幅なコストカットを断行しようとしました。しかし、伊丹空港や福岡空港に置かれていた客室乗務員の拠点閉鎖に労働組合が反対しました。人員削減計画を退職強要だとして東京地方裁判所に提訴もしています。結果、現役で5割、OBで3割という史上空前とも言える年金の減額を行いました。裏を返せば、会社が傾いてしまうほどの手厚い年金制度を継続していたということです。ANAにも労働組合はありますが、JALほど複雑なものではありません。  JALの好待遇体質を改め、人件費の比率をANAと同水準に押さえ込むのは難しいでしょう。JALはデジタル化によって生産性を上げ、利益を押し上げる計画を立てています。しかし、航空機業界は安全第一。製造業のように、ファクトリーオートメーションで省人化を図れるようなものではありません。JALが利益率を引き上げるのは、最難関の一つだと言えます。 <TEXT/不破聡>
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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