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『R-1グランプリ2024』採点分析。コントかフリップ芸か…“ネタ時間4分”で分かれた明暗

5人の審査員それぞれの「個性」

 各審査員の採点の仕方も、よく見ると個性が見えてきて面白い。バカリズムは1点刻みで採点をし、最高点と最低点はさらにもう1点差をつけている。各組に明確に点差を与え、高低差をつける採点だ。陣内と野田も、同点はあるもののほぼ1点刻みで採点をしていることが読み取れる。  一方、小籔千豊は9組の採点が92点から95点の範囲に収まっており、最高点の95点は2組、最低点の92点は3組と複数の組が同点に。自分の中に「天井」と「底」が決まっているかのよう。そして最も分かりやすいのがザコシショウだ。ルシファー吉岡と街裏ぴんくには95点と96点、それ以外は90~92点と大きく差が開いている。まるで0か1かのデジタルのような判定。  全体を見渡すと、ザコシ以外の審査員は「いいと思ったら突出して高い点数をつける」という採点をしていない。言い換えれば、ルシファー吉岡と街裏ぴんく以外の7組は、採点の仕方から大差が付きにくい状況だったと言える。その7組のなかで、ひとりだけ470点という高得点をマークしているのを見ると、いかに吉住が幅広く高い評価を受けたのかがうかがえる。

「R-1に夢はあるんですよ!」

 ファイナルステージに駒を進めたのは、ルシファー吉岡、街裏ぴんく、吉住の3人。ちなみにファイナルに進める人数も今回から2人→3人に増えている。トータルの放送時間も2時間から2時間30分に拡大され、数年前は常に時間に追われていた進行にも余裕が見られ、ネタをじっくり見られる体制が整ったように感じる。  ファイナルの出番順はファーストステージの3位から。1本目でデモ隊として警察と戦っていた吉住は、2本目で鑑識として警察側になり、どちらもうっすらと怖い彼女を演じきる。街裏ぴんくは再びセンターマイクの前に身一つで立ち、「こんな嘘ついてたら迷惑かかるじゃないですか!」と叫びながら嘘のデビュー秘話を延々と語る。1本目でザコシから「キャラ通りのことをやるから笑いやすい」と言われたルシファー吉岡は、そのキャラのまま隣人宅の前で漏れ聞いたラブコメを演じきる。  三者三様、それぞれの持ち味をフルに活かした4分に悩む審査員。ファイナル進出が3人に増えたことで、2-2-1で審査が割れることも考えられる。果たして投票結果は、陣内とバカリが吉住に、小籔と野田とザコシが街裏ぴんくに……!  3票目が入った瞬間、街裏ぴんくは手を大きく叩き、メガネを取って泣き崩れた。金色の紙吹雪が舞台を舞い、敗退したファイナリストが集まってくる。MCの粗品に「今の気持ちどうですか!?」と問われた街裏ぴんくは、舞台上に両膝をついたまま、右手を客席に突き出して、漫談の熱量のまま「R-1に夢はあるんですよ!」と声を振り絞った。  芸歴20年で初めてつかんだ栄冠。その言葉は嘘ではなく、魂からの叫びだった。 <TEXT/井上マサキ イラスト/まつもとりえこ 編集/アライユキコ> 【まつもとりえこ】 イラストレーター。『朝日新聞telling,』『QJWeb』などでドラマ、バラエティなどテレビ番組のイラストレビューを執筆。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身。X(Twitter):@riekomatsumoto
ライター。大手SIerにてシステムエンジニアとして勤務後、フリーランスのライターに。理系・エンジニア経験を強みに、企業取材やコーポレート案件など幅広く執筆するかたわら、「路線図マニア」としてメディアにも多数出演。著書に『たのしい路線図』(グラフィック社)、『日本の路線図』(三才ブックス)、『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか?』(ダイヤモンド社)など。X(Twitter):@inomsk
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