令和ロマン優勝!『M-1グランプリ2023』採点分析。“トップバッター不利説”を覆した緻密な計算
クリスマスイブに放送された『M-1グランプリ2023』(テレビ朝日系列)。過去最多8540組のエントリーから第19代チャンピオンに輝いたのは、結成6年目の令和ロマンだった。トップバッターからの優勝は、第1回大会の中川家以来のこと。令和ロマンに始まり、令和ロマンで終わったM-1グランプリを振り返る。
すべての採点を表にまとめた。赤字はその審査員がつけた最高点で、青字は最低点。審査員ごとの平均点と標準偏差(点数のバラつきが多いほど値が高い)も合わせて算出している。
トップバッターの令和ロマンには審査員全員が90点以上をつけ、いきなり648点の高得点をマーク。これは審査員が7人体制になった2017年以降、トップバッターの歴代最高得点だ(それまでの記録は2021年にモグライダーが出した637点)。
賞レースの審査では、トップバッターの点数をその後の採点の「基準」とする考え方がある。トップバッターにつけた点数をスタート地点として、そこからどれだけ増減があるかで点数を決めるのだ。塙は93点、礼二は94点を令和ロマンにつけ、この点数がこの日つけた最高点だった。令和ロマンにつけた点数が「基準」であり「天井」にもなっていたと言える。
また、令和ロマンに90点をつけた松本人志は、この「基準」に悩まされる場面が多く見られた。特にさや香に89点をつけたときは、ネタの出来に比べて80点台は低いとしながらも、「令和ロマンは越えてないと思った」と点数の根拠をコメントしている。7人の審査員の中で、平均点が80点台なのは松本人志だけ。数字だけを見れば松本人志の点数は例年に比べて低い水準なのだが、90点より上をつけることに慎重になった=トップの令和ロマンがそれだけ良かった、ということだろう。
逆に、点数の振り幅が大きかったのが山田邦子だ。最低点は87点、最高点は98点であり、点数のバラツキを示す標準偏差も3.202と審査員のなかで最も大きい。90点以上はほぼ92点~94点で推移しているところ、さや香には突出して98点をつけている。昨年も1組目のカベポスターに84点、2組目の真空ジェシカに95点と急に点数がジャンプアップした場面があり、面白かった組にエモーショナルに点数をつけているようにも見える。
トップバッターが活躍したといえば、記憶に新しいのは今年の『キングオブコント2023』だろう。トップバッターのカゲヤマが「襖の向こうでお尻を出して謝罪する」という強烈なインパクトを残すネタを披露し、最終決戦の3組に残り、最終的に準優勝になった。「トップバッターは不利」という定説を覆した出来事だった。
このカゲヤマのネタについて、令和ロマンの高比良くるまはM-1決戦前のインタビューで「1番手でインパクトを与えて後ろの組にダメージを与えるっていう勝ち方」「後に続くコントがパワーダウンして見えるかのようなアナーキーさとパワフルさがありました」と評している(※辰巳出版『コレカラ』「令和ロマン髙比良くるまの漫才過剰考察|番外編」)。そしてトップバッターに選ばれたら「僕らもなるべく突飛なネタをやって違和感を残らせるようにしたい」と話していたのだ。その結果が、あの長いツカミからの「交差点」である。
放送後にLeminoで配信された「イブより熱い大反省会(以下、大反省会)」でもくるまは、トップバッターが決まったとき「勝ち残るわけがないから超神大会にしてやろう」と、お客さんに話しかけるタイプのしゃべくり漫才でウケようと思ったと話していた。ちなみに、くるまは事前にネタを4本用意し、前の組がしゃべくり漫才をやったら漫才コントを、漫才コントをやられたらしゃべくり漫才をやろう、と作戦を立てていたという。すべては全体のバランスを考えて大会を盛り上げるため。恐ろしい。
カゲヤマは強烈なパワーで、令和ロマンは緻密な計算で、「トップバッター不利説」をひっくり返してみせた2023年。来年以降、「順番が悪かったから~」という言い訳は通じなくなりそうだ。
歴代のM-1グランプリ、キングオブコント、R-1グランプリ、THE SECONDなど、有名お笑い賞レースの採点結果を分析してきたお笑い好きテレビっ子・井上マサキ(@inomsk)が『M-1グランプリ2023』を解説、お笑いを愛するまつもとりえこ(@riekomatsumoto)がイラストを担当します。
2005年以来、トップバッターが最終決戦へ
「トップバッター不利説」が覆った2023年
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ライター。大手SIerにてシステムエンジニアとして勤務後、フリーランスのライターに。理系・エンジニア経験を強みに、企業取材やコーポレート案件など幅広く執筆するかたわら、「路線図マニア」としてメディアにも多数出演。著書に『たのしい路線図』(グラフィック社)、『日本の路線図』(三才ブックス)、『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか?』(ダイヤモンド社)など。X(Twitter):@inomsk
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