エンタメ

『離婚しない男』でも挿入歌に。中西保志の「最後の雨」が30年以上歌い継がれる理由

挿入歌のさりげないすり替えが

『離婚しない男』では、伊藤淳史扮する岡谷渉が愛娘の親権を獲得するため、妻の岡谷綾香(篠田麻里子)と悪魔的な不倫男・司馬マサト(小池徹平)との不貞現場を暴こうとする。決定的証拠がおさえられたかという瞬間に、力んで前歯が抜けるわ、指の骨にヒビが入るわで、伊藤がてんやわんや。 妻の不倫に耐えるしかない苦しい夫の孤独が際立つ。毎話のクライマックス、そんな渉の切なさが画面上を漂ったタイミングで流れるのが、きました「最後の雨」。GENERATIONSのツインボーカル数原龍友によるカバーは、なるほど、さすがホットでセクシーな数原節が直球でキメてくる。 伊藤がにじませる切なさそっちのけで、もう数原君に口説かれてる感じ。うっとりなんてしてると、第5話ラスト、グラマラスな藤原紀香がいきなり登場して、なぜか大瀧詠一の「幸せな結末」(1997年)が流れる。なに、この挿入歌のさりげないすり替えは……。これがこの不倫ドラマの錬金術のケレン味のひとつなわけだが、第6話からはやっぱりまた数原カバーの「最後の雨」ががんがん流れる。

得恋と失恋を同時に完結させるという衝撃

第4話放送後の2月10日には、数原によるカバーナンバーがシングルとしてデジタルリリース。ここで再び疑問が急浮上。最恐不倫ドラマの挿入歌(というかもはや主題歌)として、なんでまた30年以上前の失恋ソングなのかと。 単に主人公の切なさを強調するには重い。2009年には女性視点のアンサーソング「Another Rain」をちゃっかりリリースしてる。松井五郎による慎ましい歌詞には、明確なアンサーは見つからない。となると、同時代を代表する別作品に助言を求めてみる。 「最後の雨」がオリコンチャート最高位16位にランクインしたのは、リリースの翌年、1993年のこと。この年の1月期クールに日本中を驚かせた衝撃作といえば。真田広之と桜井幸子主演の『高校教師』(TBS)。真田扮する高校教師が、恋仲になった教え子の父親を殺し、ふたりで逃避行。文字通りの赤い糸をお互いの指に結んで、得恋と失恋を同時に完結させるという衝撃のラスト。
次のページ
「最後の雨」が歌い継がれる理由
1
2
3
4
コラムニスト・音楽企画プロデューサー。クラシック音楽を専門とするプロダクションでR&B部門を立ち上げ、企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆。最近では解説番組出演の他、ドラマの脚本を書いている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

記事一覧へ
おすすめ記事
ハッシュタグ