スポーツ

日本メディアが伝えた「韓国で大谷フィーバー」は本当か? ソウルの街で覚えた違和感

ソウルでの大谷人気に見る韓国人のグローバルマインド

 これは私見だが、韓国では多くの人々が、自分たちは「韓国人」であると同時に「アジア人」である、という意識を強く持っている。少なくとも、日本人以上に「アジア人」としての自覚が強いように感じる。  韓国の外務省によると、2021年時点で約730万人の韓国人が国外で暮らしている。同年における韓国の総人口は約5174万人なので、韓国人の約7人に1人が海外で生活しているということだ。一方、日本の外務省によると2022年時点で海外在住の日本人は約130万人。総人口約1億2494万人の約1%にすぎず、韓国より遥かに「内向き」であることがデータから伺える。  アメリカやヨーロッパでは、日本人も韓国人もまず「アジア人」として見なされる。他者の目を通して自分が「アジア人」であるという自覚が芽生え、同じアジア人は「仲間」「同志」だと感じるようになる。これは僕自身、10代の頃にアメリカで、多くの韓国人に囲まれながら暮らして体感したものだ。

大谷の活躍を「自分ごと」と捉えられる韓国人。その理由は?

 韓国人の多くは海外で生活しており、あるいは海外で生活した経験があり、自分たちを「アジア人」として認識している。その結果、韓国人の多くは日本人を「自分たちと同じアジア人」と見なしており、だから大谷のような日本人アスリートの活躍も「自分ごと」として喜べるという背景があるのではないか?  韓国人に比べて海外在住者がはるかに少ない日本では、自分が「アジア人」であることにアイデンティティを見出している人が少ないように感じる。それゆえに、大谷をはじめとする日本人アスリートの活躍には熱狂するが、たとえば韓国人や他のアジア出身のアスリートが活躍しても「他人ごと」になってしまうのではないだろうか?  個人的な話をすると、僕は先述の通りアメリカで多くの韓国人に囲まれながら暮らした経験があり、それゆえに韓国人は「仲間」「同志」だという意識がある。だから僕は、大谷をはじめとする日本人選手だけでなく、キム・ハソンなど韓国人選手の活躍も特別に嬉しく思う。本記事の冒頭で紹介した『大谷翔平の社会学』でも、韓国人メジャーリーガーに関する章を単独で設けたほどだ。 「韓国でも大谷は大人気!」という事実は多くの日本人にとって嬉しいものだが、それは韓国人の多くが国際的な環境で生きており、それ故に日本人を「仲間」「同志」と見なしているからかもしれない。K-POPや韓流ドラマなどの世界的成功を見ても、韓国人が優れたグローバル感覚を持っていることは明らかだ。ソウルの街中では東京よりもはるかに英語が通じる。  韓国での大谷人気は、大谷という選手のスター性だけでなく、韓国人が有するグローバルマインドを表しているのではないか? まだ肌寒いソウルの街角で、そんなことを考えた。 取材・文・撮影/内野宗治
(うちの むねはる)ライター/1986年生まれ、東京都出身。国際基督教大学教養学部を卒業後、コンサルティング会社勤務を経て、フリーランスライターとして活動。「日刊SPA!」『月刊スラッガー』「MLB.JP(メジャーリーグ公式サイト日本語版)」など各種媒体に、MLBの取材記事などを寄稿。その後、「スポーティングニュース」日本語版の副編集長、時事通信社マレーシア支局の経済記者などを経て、現在はニールセン・スポーツ・ジャパンにてスポーツ・スポンサーシップの調査や効果測定に携わる、ライターと会社員の「二刀流」。著書『大谷翔平の社会学』(扶桑社新書)

大谷翔平の社会学大谷翔平の社会学

全てが規格外! なぜ人々は大谷翔平に熱狂するのか?

1
2
3
おすすめ記事
ハッシュタグ