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元自衛官の女性が定年後、“BL専門”の漫画喫茶を開業したワケ「男性どうしが自由に愛しあえる世の中に」

自衛隊の退職金でBL漫画1,000冊を買い足す

 そうしてBL沼にずぶずぶと足を取られているうちに30年に及ぶ勤務を終え、54歳のバースデーに定年退職の日を迎えた彼女。定年後のプランは計画しておらず、「しばらく遊ぼうか」と考えていた。ところがほぼ同時期、両親が揃って介護認定を受け、世話のために帰阪を余儀なくされる事態となったのだ。 「突然、大阪へ帰ることになり、マンションに満載のこの漫画をどうしようと悩みましてね。それで、『BLしかない漫画喫茶を開けばいいのでは』って頭にピコン! と閃いたんです」  人生初の自分の店。どうせならば「場所はオタロードがある日本橋に」と決めた。さらに退職金で約1,000冊を買い足し、購入したマンションを改装。出費を抑えるため、床材探しにはじまり、内装はほぼ一人で行ったという。 「ホームセンターで買ったベニヤ板を台車に積んで、なんばの繁華街を何度も往復しました。50代の身にはコタえましたね」  自衛隊での厳しい訓練が、ここで役に立った。

好きな人を自由に愛せる世の中に

とぢこ

「性別なんて関係なく、好きな人を自由に愛せる世の中に」と願いながらBL漫画喫茶を運営している

 さて、やはりどうしても気になるのが、自衛官時代、実際の恋愛事情はどうなっていたのかである。 「リアルなボーイズラブはありましたよ。『あいつとつきあっているんです』と告白された経験もあります。女性隊員どうしというパターンもあって、微笑ましく見守っていました。偏見の目で見たことは1度もありません。だって私は小学生の頃から『性別の境目なく、誰もが愛しあえる幸せな世界』を望んでいたんですから」    当初は「意外なセカンドキャリアだ」思って取材をさせていただいたが、彼女がBLの漫画喫茶を開いたのは自然な帰結だと感じた。 「Global Gender Gap Report 2024」によると、日本のジェンダーギャップ指数は146か国中118位。G7では最下位だ。反面、日本産BL漫画は多国語に翻訳され、電子書籍が世界に流通している。漫画による同性愛表現は最先進国だともいえるのだ。これもまた、日本が胸を張って世界へ誇れるクールジャパンなカルチャーではないだろうか。 「仲間からも『BL漫画喫茶なんてどうかしてる』と言われます。でも、古い観念に縛られた人生なんて、つまんないじゃないですか。性別なんて関係なく、好きな人を自由に愛せる世の中になったら楽しいのになって、私は何十年も思っているんです」  あなたもとぢこさんのようにBL漫画に触れ、人生の新しいページを開いてみてはいかがだろう。 <取材・文・撮影/吉村智樹>
京都在住。ライター兼放送作家。51歳からWebライターの仕事を始める。テレビ番組『LIFE 夢のカタチ』(ABC)を構成。Yahoo!ニュースにて「京都の人と街」を連載。著書に『ジワジワ来る関西』(扶桑社)などがある。X:@tomokiy
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