ニュース

イーロン・マスクのスペースXが「技術革新を続けられる」破天荒な理由

失敗は計画の中に織り込みながら、短期間で試験を繰り返す

写真はイメージです

ここから、第2段スターシップは、SN(シリアル・ナンバー)という番号で呼ばれるようになった。Mk1の次のSN1からSN3までは、タンク加圧試験中に破裂して失われた。SN4はタンク加圧試験に合格したが、ラプターエンジンを取り付けての燃焼試験中に爆発した。2020年8月、ノーズコーンと可動翼を持たない、タンク形状のスターシップSN5が、150mまで上昇しての着陸試験に成功した。その後SN6も同様の飛行試験に成功。SN7はタンクの試験に使われた。「失敗は計画の中に織り込んでおいて、短い間隔で試験を繰り返し、高速で技術開発を進める」という同社の方針は、スターシップ開発でも徹底していた。 2020年12月、3基のラプターエンジンを装備したSN8が、初めて高度12・5㎞まで上昇し、ついで水平姿勢で落下してエンジンを再点火、機体を引き起こしての着陸試験を実施した。試験は最終段階までうまくいったが、機体引き起こしの姿勢制御がうまくいかず、墜落・炎上した。2021年2月にはSN9を使って同様の試験を実施したが、今度は着陸時に2基を点火する予定のラプターエンジンが、1基点火せず、また墜落・炎上した。同年3月4日のSN10の試験で、第2段スターシップ試験機としては初めて高度12・5㎞からの落下と姿勢制御・着陸に成功したが、漏れた推進剤に火がついて着陸後に機体は爆発した。続く3月30日のSN11による試験は、空中で爆発して失敗。SN12〜14は製造キャンセルとなり、ここまでの試験に基づく改良版のSN15が、2021年5月6日に飛行試験を実施して、初めて完全な着陸に成功した。 急速にスターシップの着陸試験が進んでいた2021年4月、NASAは国際協力の有人月探査計画「アルテミス」で使用する月着陸船として、第2段スターシップを月面向けに改造した「スターシップHLS」を選定した。スペースXは、ファルコン9で掴んだ勝ちパターン——国からの大規模な補助金を使って野心的な打ち上げ機を開発する——を、スターシップでも再現することに成功したのである。

3回目の打ち上げで、試験機が地球周回軌道に到達

  着陸試験に成功したスペースXは、続けて第1段「スーパーヘビー」と組み合わせた実機打ち上げ試験に進んだ。ここからは、第1段スーパーヘビーは、「ブースター」、第2段スターシップは「シップ」と呼ばれるようになった。 2023年4月20日の初号機試験は、スーパーヘビーは回収せずにメキシコ湾に落とし、地球周回軌道に入った第2段スターシップは、太平洋上空で大気圏に再突入してハワイ沖に着水、水没して投棄する予定だった。打ち上げにあたって、エンジンは、改良されてより強力になった「ラプター2」が使用された。打ち上げ時に33基もの強力なラプター2エンジンの噴射によって射点設備が激しく損傷。打ち上げ後約2分から姿勢を崩し、機体は縦に回転し始めた。第2段の分離は不可能になり、打ち上げ後4分で機体は地上からの指令で破壊された。 打ち上げ終了後、イーロン・マスクはSNSのTwitter(現X)で“Learned a lot for next test launch in a few months.”(数ヶ月後の次の打ち上げに向けて多くを学んだ)というコメントを発表した。
次のページ
必要に応じて改良する、という基本方針
1
2
3
4
ノンフィクション・ライター。宇宙作家クラブ会員。1962年東京都出身。日経BP社記者を経て2000年に独立。航空宇宙分野、メカニカル・エンジニアリング、パソコン、通信・放送分野などで執筆活動を行っている。『飛べ!「はやぶさ」 小惑星探査機60億キロ奇跡の大冒険』(学研プラス, 2011年)、『はやぶさ2の真実 どうなる日本の宇宙探査』(講談社新書, 2014年)、『母さん、ごめん。 50代独身男の介護奮闘記』(日経BP, 2017年)など著書多数。

記事一覧へ
日本の宇宙開発最前線 日本の宇宙開発最前線

なぜ日本では「スペースX」が生まれないのか

おすすめ記事