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イーロン・マスクのスペースXが「技術革新を続けられる」破天荒な理由

日本でH3ロケットの打ち上げが進む一方、宇宙開発で快進撃を続けるスペースX。6月6日にも、自社が開発する大型宇宙船「スターシップ」の4回目の無人飛行試験が行われ、宇宙空間への打ち上げ後、無事に地球への帰還に成功させたのも記憶に新しい。 世界中の官民がこぞって開発を進めるなか、なぜスペースXは大きな成果を出し続けるのか。そこには、スペースXのCEOであるイーロン・マスクの存在が大きいと、科学ジャーナリストの松浦晋也氏は指摘する。松浦氏の著書『日本の宇宙開発最前線』(扶桑社新書)から、「スターシップ」の開発の経緯を通じて、同社の躍進の理由について解説する。(以下、同書より一部編集のうえ抜粋)。

『日本の宇宙開発最前線』(扶桑社新書)

スターシップの開発は、試験機・スターホッパーから始まった

ファルコン9(※スペースXがISSヘの物資補給を可能にする上で必須となる二段式のロケット)の回収・再利用を、まず実験機グラスホッパーから開始したのと同じく、スペースXはスターシップの開発を、まず垂直離着陸の実験を行う試験機「スターホッパー」の開発と試験から始めた。スターホッパーは円筒形のガスタンクに着陸脚が付き、底面にラプターエンジンを1基装備しただけの奇妙な形をしていた。 ここでまた同社は世界を驚愕させた。スターホッパーは吹きさらしの屋外で組み立てられたのだ。これまで、宇宙用の機器はロケットであれ衛星であれ、機体に塵などが入り込んでトラブルの原因とならないように、空気の清浄度を管理した工場の建屋内で組み立てるのが当たり前だった。が、考えてみればこれもまた合理的なことだった。スターホッパーはせいぜい高度数百mまで上がって降りてくるだけだ。宇宙空間に行くわけではないのだから、推進剤配管やタンクの内側に塵が入り込まないようにすれば、外側の塵は気にする必要がない。それは地上の化学プラントと同じであって、化学プラントと同様に屋外で組み立てても問題はないのだ。   スターホッパーは、2019年8月に、高度150mまで上昇しての着陸試験に成功した。

合理的な判断の末、でこぼこの機体になった試験機「スターシップMk1」

次に第2段の試験機「スターシップMk1」が製造された。第2段スターシップは、水平の姿勢で大気圏に突入し、最後は横倒しの状態で自由落下してくる。落下時の姿勢は、機体前後4ヵ所に装備した「フラップ」と呼ばれる可動翼で制御する。着陸寸前に2段スターシップは、ロケットエンジンを点火して機体を引き起こし、垂直の姿勢になってエンジンの逆噴射で着陸する。スターシップMk1は、高度10㎞以上に上がり、姿勢変更と着陸の試験を行う予定だった。 スターシップMk1が姿を現すと、また世界は驚いた。機体は、ベコベコのでこぼこだらけだったのである。これも同社の見せる合理性の一例だった。宇宙に行かない試験機なら、機体表面の精度に気をつかって高精度に仕上げるよりも、手早く安く作ったほうがよいという判断だ。 ところがスターシップMk1は、2019年11月にタンクの加圧試験中に破裂して喪失した。が、ある程度の失敗は織り込み済みだった。この時点ですでに次の試験機の製造が進んでおり、しかもそれらは新たに得られた知見に基づき様々な設計変更が加えられ、少しずつ形状が異なっていた。
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失敗は計画の中に織り込みながら、短期間で試験を繰り返す
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ノンフィクション・ライター。宇宙作家クラブ会員。1962年東京都出身。日経BP社記者を経て2000年に独立。航空宇宙分野、メカニカル・エンジニアリング、パソコン、通信・放送分野などで執筆活動を行っている。『飛べ!「はやぶさ」 小惑星探査機60億キロ奇跡の大冒険』(学研プラス, 2011年)、『はやぶさ2の真実 どうなる日本の宇宙探査』(講談社新書, 2014年)、『母さん、ごめん。 50代独身男の介護奮闘記』(日経BP, 2017年)など著書多数。

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