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イーロン・マスクのスペースXが「技術革新を続けられる」破天荒な理由

必要に応じて改良する、という基本方針

2回目の試験は、初号機の失敗から7ヶ月後の2023年11月18日に実施された。2号機打ち上げ試験でも、初号機同様、1段は分離後に機体の姿勢と速度を制御しつつ落下して、カリブ海に逆噴射を使って軟着水、2段は地球をほぼ一周して大気圏に突入し、着陸動作を模擬しつつハワイ沖合の海上に同じく軟着水する予定だった。射点設備には強力な散水設備が新たに装備された。打ち上げ数秒前から大量の水をスーパーヘビーの直下に散水してラプターの噴射を受け止め、射点の損傷を防ぐというものだ。 ここでも「必要に応じてどんどん改良を加える」というスペースXの技術開発の基本方針が発揮され、2号機では、新たに第1段分離直前から第2段エンジンに着火する「ファイヤ・イン・ザ・ホール(FITH)」という動作シーケンスを採用した。

爆発で機体を失っても、Xに投稿された「おめでとう」の一言

ロケットは上昇する間ずっと重力に引かれている。このため一気に加速して上昇時間を短くしたほうが重力によるエネルギー損失が少なくて済み、打ち上げ能力が向上する。通常ロケットの段間分離は、エンジンを止めた状態で分離し、安全が確保できるまで十分に離れてから上段のロケットエンジンを着火する。この方法では、数秒から数十秒、無動力で重力に引かれて落下する状態になるのでその分打ち上げ能力が落ちる。FITHは無動力の時間をゼロにすることで打ち上げ能力を向上させる手法だ。   2号機ではスーパーヘビーは第2段の分離まで完全に動作した。新たにFITHを採用した第2段分離も成功。しかしスーパーヘビーは、分離後、姿勢制御を行って逆噴射しつつメキシコ湾に着水する予定が途中で爆発して喪失。第2段は途中まで完璧に動作したが、途中でエンジン燃焼が不調に陥り、飛行継続は不可能と判断した搭載コンピューターが自律的に機体を破壊した。 X(旧Twitter)のスペースX社アカウントは、「全スペースXのチームに、スターシップのエキサイティングな2回目の飛行試験、おめでとう。スターシップは、スーパーヘビー・ブースターの33基のラプターエンジンの力で離陸し、第2段分離を通過した」というポストを書き込み、技術的に大きな前進であったという認識を示した。
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成功の一因は、スペースXならではのテンポの速さ
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ノンフィクション・ライター。宇宙作家クラブ会員。1962年東京都出身。日経BP社記者を経て2000年に独立。航空宇宙分野、メカニカル・エンジニアリング、パソコン、通信・放送分野などで執筆活動を行っている。『飛べ!「はやぶさ」 小惑星探査機60億キロ奇跡の大冒険』(学研プラス, 2011年)、『はやぶさ2の真実 どうなる日本の宇宙探査』(講談社新書, 2014年)、『母さん、ごめん。 50代独身男の介護奮闘記』(日経BP, 2017年)など著書多数。

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