更新日:2024年08月31日 17:11
お金

サントリー「翠」が最初から缶を出さなかったワケ。「絶対に譲れなかった“棚”の確保と“売れる自信”」

草薙信彦

サントリー株式会社 スピリッツ本部 リキュール・スピリッツ部 課長の草薙信彦さん

居酒屋で注文するお酒の中で不動の人気はビールやハイボール、レモンサワーといったソーダ割りのお酒だろう。 基本的にどんな料理やおつまみとも合わせやすく、“定番の食中酒”として根付いているが、ハイボールやレモンサワーに続く「第3のソーダ割り」としてジンソーダの普及に努めているのがサントリーだ。
翠ジンソーダ

翠ジンソーダのキービジュアル

「翠(SUI)」の登場は2020年3月。700ml入りの瓶タイプを発売すると、当初の販売計画を上回る売り上げを記録し、2022年3月には350ml/500ml入りの缶タイプ「翠ジンソーダ缶」を市場へ投入したことで、2023年の翠ブランド全体の販売金額が新発売時の2020年に比べ、約10倍の規模に成長した。 サントリーが新市場の開拓を狙って「ジン」カテゴリーに着目した理由や、ジンソーダの定番化に向けた取り組みについて、サントリー株式会社 スピリッツ本部 リキュール・スピリッツ部 課長の草薙信彦さんに話を聞いた。

今までになかった「ジンのソーダ割り」が宅飲み需要を捉える

翠

写真左から「ROKU」と「翠」の瓶タイプ(700ml)、「翠」の缶タイプ(350ml/500ml)

サントリーは1936年から80年以上にわたって、国産ジンを大阪工場で製造している。そこで培われたものづくりの技術や知見に加えて、世界のジン市場拡大の潮流が高まっていたことから、「食中酒の新たな提案として、ジンソーダに商機を感じた」と話す。 「2017年に発売した国産プレミアムジン『ROKU(六)』は、カクテル需要が高く、グローバルブランドとして非常に高い評価をいただいています。一方で、日本ではジントニックやジンバックといったジンを使ったカクテルは、バーやクラブで飲むお酒というイメージが強く、飲食店で飲むお酒としては浸透していませんでした。 そこで、ジンにハイボールやレモンサワーのようなソーダ割で気軽に飲めるお酒としての可能性を見出し、『翠』の開発に着手したのです」(草薙さん、以下同) 消費者の認識を「バーで飲むお酒」から「食事に合わせて飲む日常酒」へと変容させ、ジンのソーダ割を定着させていく。このような目標を立て、2020年3月に翠の瓶タイプを発売。 当初は居酒屋などを中心に拡販を狙ったが、同時期に訪れたコロナ禍の影響で営業開拓ができずに苦戦を強いられたという。 「翠の発売当時は瓶だけでしたので、コロナ禍のタイミングで居酒屋が営業していない状態では、ブランドとお客様との接点が作れずに苦労しました。ただ、ジンソーダという飲み方自体の新しさはあったため、幸いにもスーパーや小売といった流通先の反応が良く、翠のために大きな売り場で展開いただいたことで、順調なスタートを切ることができました」

自信を持って売れる状態になるまで缶を出さなかった

草薙信彦加えて、メッセンジャーを起用したテレビCMを放映し、「それはまだ、流行っていない。」というキャッチフレーズが大きな反響を呼んだことで認知度も一気に高まった。 しかし、消費者目線からすると、ジンソーダを飲むために、いきなり瓶から買うのはハードルが高い。翠は瓶タイプの商品を市場に出してから2年かけて缶タイプの商品を発売したが、その理由について草薙さんは「失敗できないからこそ、手応えを感じてから缶タイプを出したかった」と語る。 「瓶タイプのみだと、お客様が手に取りづらいと思っていたので、早く缶タイプを出したい気持ちは当然ありました。ですが、まずはしっかりと飲食店を中心に認知を上げていき、ジンソーダがお客様の頭の中で『どこかで飲んだことがある』と想起される状況を作りたいと考えました。 特に缶商品は、売り場の棚の商品改廃で競合他社との配荷争いが激しく、中途半端に出しても初めから売れなかった場合は棚落ち(商品が売り場から外されること)してしまいます。そのため、『これなら売れる』という自信を得たタイミングでないと、缶タイプは発売できないと考えていました」
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飲食店を“メディア化”
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1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている

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