更新日:2024年08月31日 17:11
お金

サントリー「翠」が最初から缶を出さなかったワケ。「絶対に譲れなかった“棚”の確保と“売れる自信”」

飲食店を“メディア化”することで認知度向上につながった

そんななか、飲食店で展開するときに意識したのが「飲食店のメディア化」だと草薙さんは説明する。 翠専用のブランドグラスをお店で使ってもらうほか、翠のポスターを掲示してもらいブランドを露出させることで、ジンソーダを想起させることにつながるわけである。 さらには、品質の高い状態でジンソーダを飲んでもらうための飲食店向けセミナーを開くなど、翠の世界観や良質な飲用体験の創出を徹底したそうだ。 「サントリーでは、実際にお客様に飲用いただくときの品質向上にも力をいれています。翠を取り扱いいただいているお店には『氷をぎっちり入れて、翠とソーダを1:4の割合でゆっくり1回混ぜる』という「おいしい翠ジンソーダのつくり方」を伝えるなど、提供品質向上のフォローを行っているんですよね。お店によって、品質のばらつきが出ないよう、『いかにお客様に美味しく飲んでいただけるか』を意識しています」 こうして2022年3月に翠の缶タイプを発売したところ、2ヵ月で1,400万本出荷という結果に。
翠

2022年3月に発売した「翠」の缶タイプ(2024年にリニューアルを実施)

各メーカーからさまざまな缶の新製品が登場することから、どうしても埋もれがちになるが、「飲食店でジンソーダを飲んだ体験が下地となり、老若男女問わずに幅広い年代のお客様に購入いただいていた」と草薙さんは述べる。

店でも、家でも、缶でもジンを飲む機会を増やしていく

ROKUと翠

プレミアムジンの「ROKU」とスタンダードの「翠」で国内ジン市場の拡大を図っていくという

翠は国内ジン市場を切り拓き、さらなる需要拡大へ向けて、「店でも、家でも、缶でも」といった“三位一体”のマーケティング戦略に取り組んでいる。 飲食店の施策は先述した通りだが、スーパーの店頭では翠の瓶と缶を2つ同時に出していく工夫を凝らしているという。 「翠を知らないお客様も、瓶酒で作られていることがわかれば、出自がしっかりしている本物の商品だと認知してもらえるので、瓶と缶をセットで出すのはすごく意味があることだと思っています。 既存のROKUはプレミアム価格帯で初心者は手を出しづらい一方で、翠はジンのハードルを下げて、間口を広げていく役割を持つブランドになっています。ジンソーダの魅力に気づき、ジンをさらに楽しみたいお客様にはROKUを提案していく。このような循環を作れていけたらと考えています」 今後の展開としては、2030年までに国内ジン市場を現在の約2倍となる450億円規模にしていく目標があるという。 その目標を達成するべく、大阪工場の生産能力を高めるための設備投資や、ROKUと翠のブランド認知拡大を図る広告やプロモーションといったマーケティングの強化を進めていくと草薙さんは話す。 「翠に関しては、成長軌道に乗ってはいるものの、まだまだ伸びしろが大きいと感じています。なので、これからも積極的な投資を行い、より多くのお客様に楽しんでいただけるように尽力していくことが重要だと捉えています。 居酒屋などで食事とともにお酒を飲む際に、現状でもビールやハイボール、レモンサワーのニーズは大きいですが、そこにジンソーダも入ることができれば、まだまだ裾野を広げられるポテンシャルはあると見込んでいるので、引き続き翠の魅力が伝わるように訴求をしていきたいですね。今年から新たに、翠の清々しい香りが際立ち、飲み心地の爽快さにこだわった『翠ジンソーダ専用ジョッキ』を導入しました。翠の独自価値である清々しさを表現し、ジョッキの親しみ・定番感を感じつつ、翠らしい品質感を担保するデザインになっています」 ウイスキーや焼酎と比べれば、ジンのお酒はまだまだ存在感が薄いかもしれないが、サントリーにはウイスキー「角瓶」を使った角ハイボールを飲食店に流行らせた過去の成功体験がある。 その成功になぞらえ、ジンの普及に努めることで、ジンソーダも定番のお酒としての地位を築ける可能性も十分にあるのではないだろうか。 <取材・文・撮影(人物)/古田島大介>
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている
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