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元「奨励会」35歳男性が“プロ棋士になる道”を断念した理由。友人・若葉竜也の言葉が後の進路を決めるきっかけに

負けたら「この世の終わりのような気分に」

――とはいえ、やはり対局の際の緊張感や負けたときの絶望感は想像するにあまりあるのですが……。 栗尾:それはもう、相当なものです(笑)。負けたらこの世の終わりのような気分になるのは、誰でも通る道ではないでしょうか。私も、負けた帰りの電車で延々と頭のなかで対局が繰り返されていたりしましたし、途中下車して吐いてしまったこともあります。発熱したこともありましたね。  それから先輩でこんな人がいました。対局室を出てきたときの雰囲気がおぞましくて、とても話しかけられるような雰囲気じゃなかったんです。エレベーターからどこかへ消えてしまって、しばらくしてその人のSNSを見たら、「気づいたら新潟に来ていました」とか書いてあって驚きました(笑)。よほどショックだったんでしょうね。  ただやはり、その絶望感があるから、勝ったときの喜びの大きさが段違いだという側面があると思います。その落差に魅せられて、将棋にのめり込むんでしょうね。

NSC入学は俳優の友人からの一言がきっかけ

――栗尾さんは奨励会退会後、お笑い芸人を目指してNSCに入学するという変わり身をみせていますが、これはどういう心境の変化でしょうか? 栗尾:単なる思いつきではなくて、昔からお笑いは大好きだったんです。中学生のころは友人2人から「お笑い芸人になろうよ」と誘われるくらいでした(笑)。ただ、当時は当然、将棋があるため「二足のわらじは無理」と言って断ったりしていて。  中学校1年のときから仲良くしていて、今でも割と頻繁に遊ぶ友人に俳優の若葉竜也くんがいるんですが、奨励会を辞めたあとの進路についても、実は彼に相談しました。 ――今をときめく実力派俳優ですね! どんなご相談を? 栗尾:奨励会にいたころは、将棋一筋で、他のことはまったく視界に入らなかったんです。しかし辞めたとき、世の中には将棋以外にも楽しいことはたくさんあるなと思ったんです。  で、私は3つほど候補を考えていました。1つは、将棋の実績で推薦入学が可能な立命館大学を目指すこと。2つ目は公認会計士を目指すこと。最後が、お笑い芸人です。  若葉くんに相談したら、「それはずるいよ、もう自分のなかで答え決まってるでしょ? お笑い芸人でしょ?」って(笑)。「責任を半分背負わせようとしてるじゃん(笑)」って言われたあとの、「頑張ってみなよ」という言葉に、なんだか救われた気がしました。彼は昔から、具体的なことはあまり口にしないものの、頑張っている人のことを見ていて、手を差し伸べてくれる優しさがあります。きっと、うまくいかなくても何とかなると励ましてくれたんだなと思います。
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藤井聡太の“読み”の深さと広さは底知れない
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ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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