ライフ

元「奨励会」35歳男性が“プロ棋士になる道”を断念した理由。友人・若葉竜也の言葉が後の進路を決めるきっかけに

26歳までに3段になれないと退会

――それでもプロ棋士を目指すんですね。ちなみに、どういう理由で退会する人が多いのでしょうか? 栗尾:多いのは、ライフステージの節目――たとえば受験や就職活動など――でしょうね。あとは奨励会の規定で、「この年齢のときにこの段位が取れていないと退会」というラインがあるので、去っていく人もいます。奨励会は入会と同時に6級になり、条件を満たせば進級していきます。1級まで行ったら初段、2段、3段と上がって、3段が最高位です。3段になるとリーグ戦があり、半年に一度、2人ずつがプロ棋士になれます。ちなみに原則、26歳までに3段になれないと退会です。 ――かなり狭き門ですが、費用は莫大にならないですか。 栗尾:現在は異なっていますが、私が入ったときは、奨励会入会の際に100万円程度を納めて、プロ棋士になれなければ退会時にその一部を返金してくれる制度がありました。敷金みたいですよね(笑)。ただ、奨励会は月に2回行われ、全国から集まるため、遠方の人の場合は費用もかなりかかったと思います。

中3で初段まで行ったものの…

――栗尾さんは、どうしてお辞めになったのですか? 栗尾:私は素行がよくなくてですね(笑)。記録を取るときに眠くて寝てしまったり、それを先生に叱責されればふてくされたり。今考えるとだめですよね(笑)。  辞めたもっとも大きな理由としては、自分なりのけじめの意味もあったと思います。私は入会後、わりとすんなり進級することができて、中3で初段まで行きました。しかしそこから先が全然進まなくて。先生から、「これ以上停滞するようなら、辞めるつもりで将棋を指さないか」と言われてしまって。おそらく私を鼓舞する意味で言ってくれたのだと思いますが、そのまま上がることができずに退会しました。 ――奨励会の日々は、栗尾さんにとってどんな思い出ですか? 栗尾:結構みんな仲が良くて、同じ将棋を愛する仲間だし、楽しかったですよ。そもそも将棋自体がすごく楽しいんです。負ければかなり精神的に削られるし、落ち込むんですが、それでもまた指したいと思えます。みんな基本的に将棋の話をメインにするし、まっすぐだから、一緒にいられたのは良かったですね。将棋を直視し続けられた経験は、自分のなかで大切なものです。
次のページ
負けたら「この世の終わりのような気分に」
1
2
3
4
5
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

記事一覧へ
おすすめ記事
ハッシュタグ