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ダルビッシュ「月間MVP落選」は当然

 レンジャースのダルビッシュ有投手が、4月のア・リーグ最優秀新人に選出されたのはご存知のとおり。しかし日本のメディアでは月間MVP(月間最優秀投手)を期待する声が体勢を占めたのは事実だ。NHKは実況放送中にその可能性に言及し、民放のあるニュース番組では「(月間MVPは)これでもう間違いないですね!」と断言までしていたほどだった。
ダルビッシュ

インディアンス戦の1回、捕手のトレアルバ(右)と話すレンジャーズのダルビッシュ=6日、クリーブランド 写真/AFP=時事

 彼らがダルビッシュに太鼓判を押した理由は、リーグ1位タイの4勝と、4勝を挙げた先発投手4人の中で最も低い防御率(2.18)だった。  しかしフタを開ければ、選出されたのは3勝(1敗)のジェイク・ピービー(ホワイトソックス)。ダルビッシュは結局2位だった。この事実は投手の実績評価の基軸の日米差を象徴しており、とても興味深いものがある。 ●日米で異なる「投手評価の指標」  日本では先発投手のパフォーマンスを測る指標は、何よりも勝ち星。したがって日本のメディアが3勝1敗のピービーなど眼中にもなく、ダルビッシュを含む4人の4勝投手に候補を絞ったのは、そこに視聴者を喜ばせたいとの意図はあったにせよ、理解はできる。  しかしメジャーでは「投手の勝敗数は、投球内容と最も因果関係が薄い指標のひとつ」という考え方が浸透しているのだ。事実’10年には、13勝12敗と「平凡な成績」だったフェリックス・ヘルナンデス(マリナーズ)が、リーグ1位の防御率(2.27)、リーグ2位の奪三振(232)を評価され、21勝7敗のCC・サバシア(ヤンキース)らを差し置いて、投手の最高峰である「サイ・ヤング賞」に選出されたことにも現れている。  したがって今回のケースも、防御率(1.67)、完投(2)、投球回(37.2)、被打率(.162)の全カテゴリーでリーグ1位だったピービーが選出されたのは当然とも言えるだろう。ナ・リーグに目を移しても、4月の月間最優秀投手に選ばれたスティーブン・ストラスバーグ(ナショナルズ)も、防御率1.13、投球回(32)を上回る34奪三振と内容は文句なしだったが、勝ち星自体は2勝(0敗)でしかなかった。 ●「勝ち星」は関係ない  アリゾナでの春季キャンプでのこと――。  日本から大挙して押しかけた報道陣は、レンジャースの関係者や現地メディアに「ダルビッシュは何勝すると思うか」という質問を幾度も浴びせていたが、レ軍関係者は「なんでそんなことを聞くんだ?」怪訝な反応を示したそう。これは非難というより、素朴な疑問なのだ。  では、メジャーではどの指標で評価するのだろうか?  一般的な投手の通信簿は、「投球回数」と「奪三振・与四球比(K/BB)」で評価される。もう少し細かい話になると、FIP(与四球、被本塁打、奪三振から算出する疑似防御率=Fielding Independent Piching)などが用いられるが、計算式がややこしいので今回は割愛させていただく。  年間162試合をこなすメジャーの目安は次の通り。 ・「投球回」は年間200なら文句なし。 ・「K/BB」は概ね2.0が平均レベル。  MLB全体の平均与四球率(9イニングあたりの四球数)が3.0前後、同じく奪三振率は6.0前後だからだ。  ちなみに4月のダルビッシュは「投球回」が33で、年間ほぼ200ペースだが、「K/BB」は1.94と並みのレベルだった。奪三振率は9.00と高いものの、9イニング当たり4.63の与四球率が足を引っ張っている。  受賞したピービーは、それぞれ230回&6.60とダルビッシュを圧倒していたのだ。  5月最初の登板でメジャー初黒星を喫したダルビッシュ。11三振を奪ったものの、やはり四球が失点に絡んでいた。相手打者を圧倒しつつ、周囲から大投手の評価を得るための鍵は、ズバリ「与四球数」にあるのだ。 <取材・文/NANO編集部> 海外サッカーやメジャーリーグのみならず、自転車やテニス、はたまたマラソン大会まで、国内外のスポーツマーケティングに幅広く精通しているクリエイティブ集団。「日刊SPA!」ではメジャー(MLB)・プロ野球(NPB)に関するコラム・速報記事を担当。
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