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街の公園に猛毒六価クロムが環境基準の30万倍以上も!

産業で汚染された土地が、浄化処理をされずそのまま宅地造成されたというケースが問題になっている。多くの住民は汚染の事実を知らずに住宅を買い、調査や補償も十分にされないまま、今でも土壌汚染や地下汚染の被害に苦しんでいる。日本には、こうした土壌汚染の可能性のある場所が、なんと93万か所もあるという! そんな”土壌汚染列島”ニッポンの実態をリポートする。 東大島(東京都) 環境基準の30万倍以上! 猛毒六価クロムが14万m3  東京都江東区・江戸川区にまたがる都営新宿線・東大島駅前には25haの「大島小松川公園」が広がり、周辺には多くの空き地が点在する。交通至便な駅前に、なぜ商業施設や住宅が建てられていないのか? この疑問に江東区議会議員の中村まさ子さんが答えてくれた。 「建てられるはずがないんです。ここには猛毒の六価クロムが大量に埋まっていますから。何かを建てようとすれば、六価クロムを地中から掘り起こして、どこかに移さなければなりません」  大島小松川公園はエリアごとに「わんさか広場」「風の広場」などと名づけられ、周辺の土地と比べると丘のように盛り上がっている。 「六価クロム鉱滓の捨て場所に困った日本化学工業(日化工)と都がここにクロムを積み上げ、その上に盛り土をして公園にしたのです。現在も地下水からクロムが流れ出ているのでたいへん不安。しかし、どれくらいの量が地下水や大気中に流出しているのか、都は調査をしようとしません」 「風の広場」には、環境基準値の30万倍以上、1万5600ppmのクロムが約14万m3も埋められたという。六価クロムは猛毒で、皮膚に触れると潰瘍を起こし、体内に入ればがんなどの原因となる。
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東京都江東区の「風の広場」がオープンしたのは’91年。 以来数年間、公園下の鋼矢板から黄色い六価クロムが漏出していた ◆猛毒クロムを市街地から市街地へと埋め直し  日化工がこの地域で操業を始めたのは1915年。中村さんの父が東大島に住み始めた60年前には、家の屋根や窓枠に六価クロムの黄色い粉が積もるのは日常茶飯時だったという。だが、住民はそれを猛毒とは認識していなかった。  六価クロムが周辺住民を震撼させたのは’75年。日化工の労働者461人のうち62人に鼻中隔穿孔(鼻の右穴と左穴を仕切る軟骨に穴があく)、18人が潰瘍に侵され、8人が肺がんで死去したことが明らかになったのだ。 「それどころか、江戸川区と江東区を中心とした都内の1000か所以上に、日化工が52万tのクロムを投棄していたことが判明したのです。クロムが埋まっている場所で遊んでいた子供たちにも鼻血や湿疹などが現れました」  日化工は’72年に江戸川区での操業を終了。その後、都との交渉で「汚染土壌処理費用の全面負担」に同意し、浄化処理工事を始める。これで問題は解決したかにみえた。 「ところがです。’92年、東大島駅周辺の再開発事業区域に、クロムの汚染土壌がまだ9万m3も埋められていることがわかり、そのうち4万m3を江東区大島9丁目にある都営アパートの向かいの公園予定地(都有地)に埋め立てることになったんです」  クロムを掘り出していた現場は、中村さんが当時住んでいたマンションの正面だった。 「都の『クロム健診』で、当時中学生だった娘の尿中クロムの値が許容量上限までいってしまいました」  市街地から市街地への埋め直しに驚いた住民たちは、都監査委員会に監査請求を出すが却下。さらに工事差し止めを求めて提訴するが、これも敗訴に終わってしまう。  本来、最も厳しい遮蔽型の最終処分場で処理されるべきなのでは? 都環境保全局はこう答えた。 「あの場所のクロムは「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(廃掃法)の制定以前に投棄されたもので、『産廃』にはあたりません。つまりこの事業は『産廃処理』ではなく『環境保全対策』の一環。法的制約は受けないのです」  こんな理屈で、猛毒が堂々と市街地で処理されているのだ。今でも、あちこちの工事現場で地中からクロムが顔を出している。 「私たちは、ここに住む限り一生クロムの被害と付き合っていかなければなりません。都には、周辺地域での疫学調査をしたうえで、日化工とともに恒久的な浄化処理に取り組んでほしい」(中村さん)
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クロムの漏出がひどいため、日化工は10年ほど前から地下水の浄化プラントを設置。現在も操業を続けている
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こちらも浄水施設。地下に埋められた数万トンのクロムの被害を止めるため、恒久的な処理施設が必要だ
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クロムを積み上げて造られた公園。左は「公園のクロムを考える会」を設立し、その後区議会議員として活動する中村まさ子さん
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クロムが埋められた大島9丁目の公園予定地。フェンスが張られ野ざらしのまま、周囲には ― 住宅地の土壌汚染がヤバすぎる!【1】 ―
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