ニュース

「もう津波を言い訳にできない」大船渡魚市場の決意

大船渡魚市場 週刊SPA!にて好評連載中の「週刊チキーーダ!」の番外編。エコノミストの飯田泰之氏×評論家・荻上チキ氏による陸前高田市と大船渡市ルポの第2弾は、大船渡魚市場専務取締役の千葉隆美氏のインタビューである。早朝6時30分の魚市場は、水揚げされたばかりの魚が並び、仲買人の声が行きかう。「1年足らずでよくぞここまで」という思いを抱きつつも、「今年からは津波を言い訳にできない」と海と陸をつなぐ市場を取り仕切る千葉氏は決意を語ってくれた。

大船渡魚市場が震災後、わずか3か月半で本格的に操業を再開。昨年のサンマ漁は、前年の70%の水揚げ量で、本州では銚子に続いて2番目の水揚げとなった。

「市場の岸壁が崩落したりした近隣のほかの魚市場に比べたら、全体的な被害の程度は軽いほうだったと思います。当初は地盤沈下のため大潮のときには支障もでましたが、岸壁そのものは船をつけて水揚げできるという状況でしたから、他の市場よりは立ち上がりが早かったのかなって思っています。いろいろご支援をいただきまして、徐々に軌道にのりつつあります。が、一昨年を100とすれば、60~70というところ。個人的には、あれだけの災害で、1年ちょっとでここまで復活できたことをよしとしなくてはいけないかなという思いもありますけどね。昨年のサンマの水揚げは、あの状況でよくやったと思います。サンマは特に、氷など鮮度保持の施設がなきゃ、出せないものですから」

 よく指摘されることではあるが、水産業は魚を捕る漁師だけで成り立つ産業ではない。漁業者がとった魚を水揚げする市場があり、仲買人がいて、鮮度を保持したり加工したりする業者、流通業者が揃ってこそ水産業が産業として成立する。

大船渡魚市場

大船渡魚市場 専務取締役・千葉隆美氏

「魚をとる漁師さんに買い受け側、そして消費者ですね。それらが一緒に揃わないと。どこかひとつが欠けても前には進めないんです。

 生産者、漁業者の方の立ち上がりは早かったのですが、やはり課題は陸の受け入れ態勢ですね。その中で、我々、市場というのは中間に位置する存在です。今後、多少のリスクも取りながらチャレンジしていかないと、この大きな屋台骨は支えていけないのかなという思いもあります。

 大船渡魚市場の水揚げの中心は定置網漁です。定置網は魚のいる漁場を求めて遠洋まで出る漁船漁業と異なり沿岸沿いに魚が回遊してくるのを“待つ”漁です。いわば、「合理的かつ非合理的な漁法」なんです。この定置網漁を基盤として確固たるものにして、そして外洋にも出て行く。今日も1本、上がっていましたが、例えば、これまで扱ってこなかったサメなども積極的に扱っていこうと思っています。

 その受け入れ態勢をつくれば、漁業者さんのほうから「どうですか?」「これあげてくれませんか?」という話にもなりますから。水揚げの量や種類が多くなれば人も集まる。『たくさん魚があがっているから安く買える』という目的で来た仲買人も、他のものが買いたくなる。そうなると、底値が少し高くなる。地元の人間も負けたくないから、いい値段で買う。相乗効果が生まれていく。そういう商売なんですよ」

 これから、夏漁のはしりは、マグロから始まり、サバ、カツオ。季節が秋に移ればサンマ、冬になればサケ。海の中は、急速に復活を遂げている。

「震災後に潮の流れが変わったなんて話もありますが、もとより、我々の相手は自然です。頭で考えて準備してできれば楽なんでしょうけどね。とにかくスタートして、そこからいいものがあったら探していくというのが、私たちのやり方です。去年は水揚げがなくても、ある意味、『津波のせい』と言えた。でも、もう今年からは違う。結果を残していかないといけませんから」

 今年4月、厚生労働省は食品に含まれる放射性セシウムの基準値を、1kg当たり100ベクレルに変更。厳格化される中で、水産業全体が消費者への安全・安心の確保と風評被害への間で揺れている。

  多くの課題が立ちはだかる中で、「結果を残す」と語った千葉氏の言葉の重みを思う。

大船渡魚市場

市場2階にある事務所の壁や床にも津波の爪痕は残る。震災時、建設中だった新市場もまもなく完成する

取材・文/鈴木靖子 撮影/土方剛史




おすすめ記事