東京23区内の大自然・等々力渓谷には現代の“修験者”が出没中
東京都の自然といえば奥多摩や高尾山、さらには離島の三宅島や小笠原諸島を思い浮かべる人も多い。だが23区、しかも商店街のすぐ側に渓谷が存在すると言ったら、にわかに想像はつかないだろう。
渋谷から約20分、東急線「等々力」駅から徒歩5分程度にある緑の渓谷、等々力渓谷。公園のような入口の階段を降りると、そこは果てしない緑と谷に挟まれた川、まさに別世界が開ける。等々力渓谷は多摩川の支流である谷沢川の侵食によって形成された渓谷だ。
渓谷内には貴重な野鳥や、古墳時代末期から奈良時代のものと推測される「等々力渓谷第3号横穴古墳」など、見所がてんこ盛り。そして最奥には「稚児大師堂」と「不動の滝」がある。今こそ湧水程度であるが、昔は轟音が鳴り響くほどの水量があったとされ、「水音が轟いた」という意味から等々力の地名が付けられたと言われている。
平安時代はこの滝に打たれ行をする修行僧で賑わった、霊験あらたかな場所もある。不動の滝の上には等々力不動尊があり、参拝客が訪れている。念仏を唱え続けながら、滝の前にある稲荷堂に供物を捧げる年配男性もちらほら。
また、肩まである茶色い長髪に革ジャンパー、ジーンズにライダーブーツと言ったいでたちの男性(歳は30代?)が不動の滝の前に立ち、一心不乱に真言らしきものを唱え始めた。ちなみにこの日の気温は30度前後。
男性は暑さをものともせず、一心不乱に真言を唱え続けること30分以上。男性の声が渓谷中に響き渡るなか、ハイキング客が次々と立ち止まり、摩訶不思議な光景を見守っていた。ちなみにこのライダー風男性、行を始める前に稚児大師堂に腰を90度の角度に折り曲げて参拝している姿も目撃されており、生半可な心構えでやってきているわけではなさそうだった。記者もしばらく見入っていたが、帰り道を確認していたほんの数分の間に、ライダー男性の姿は消えてしまっていた。残念ながら、男性のコメントを取ることはできなかった。
商店街やコンビニが立ち並ぶすぐすぐ側に突如渓谷が広がり、内部には彼のような「現代の修験者」が現れては消える……まるで異空間が交差しているような感覚をおぼえる。
東京の大自然は一筋縄じゃいかないようだ。
取材・文/玉
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