「毛虫」の周期的な異常発生。その原因は何?
―[毛虫が全国で異常発生のナゾ]―
毛虫が全国的に「異常発生」して、森林や農作物に被害が出ているという。「温暖化の影響では」「天変地異の前触れではないか」とも言われているが、その原因は何なのか?
◆マイマイガの天敵は昆虫の「疫病」!?
大発生したマイマイガの幼虫(毛虫)は樹木の葉を食べつくし、その後近くの農作物へと向かう。ムギ類、マメ類、果樹、バラやツツジなど花卉の害虫でもあるのだ。
また昨年、人里に出没するクマの数が東北や関東などで激増。これはエサとなるブナの実が豊作でメスが子グマを多く出産した一方、マイマイガの幼虫の大発生による食害で、春~夏にクマが食べる実が不足したことなどが原因ではないかといわれている。
成虫の場合は、建物の壁などにビッシリとはりつき、夜は明かりのもとに大集結する。昨年、マイマイガが大発生した岐阜県では世界遺産の白川郷のライトアップにマイマイガが殺到、8月末まで中止に追い込まれた。
森林総合研究所・森林昆虫研究領域長の伊藤賢介氏はこう語る。
「マイマイガの大量発生に関する全国的なデータはありません。大騒ぎになっているのはここ数年のことなので、調査や分析はこれからというところです。
わかっているのは、周期的に大発生しているということ。その原因についてはまだよくわからないのです。昔は『太陽黒点と関係があるのでは?』などとも言われていましたが、これは否定されています。
天敵となる動物が減ったとの説もありますが、マイマイガの幼虫に寄生するハチや捕食する鳥が減ったとしても、それが個体数を左右するほどの大きな要因にはなっていないようです」
マイマイガ幼虫の大量発生によって大きな被害を受けている岐阜県では、マイマイガの生態に関する研究が進められている。その中心となっているのが、岐阜県森林研究所の大橋章博氏だ。
「岐阜県の飛騨高山地方などでは、山ごとハゲ山になってしまうなど、朴葉の生産にも大打撃がありました。そこで’14年6~7月に、岐阜県内のマイマイガの死亡幼虫を採取して調べたのです。その結果、マイマイガの大量発生が収束する原因の9割以上は『疫病』だということがわかりました。
『エントモファーガ・マイマイガ』というカビ(昆虫疫病菌)の一種が流行すると、マイマイガの幼虫は蛹になることができずに死滅します。飛騨方面の発生については、収束に向かっていくでしょう。
しかし県内のほかの地域では、まだこの菌が検出されていないので、まだまだ大量発生は続くと思われます。収束の原因はある程度判明したものの、大量発生の原因はまだよくわかっていません」
<マイマイガをめぐる動き>
●山形県
昨年、米沢市を中心にマイマイガの幼虫が大発生。山の木々の葉が食い尽くされ、観光地では職員が駆除に追われることに。また羽化した成虫が市街地の街灯などに集まり、周辺に多数の死骸が散乱。同県の蔵王温泉では、樹氷の木となるアオモリトドマツが、大量発生したトウヒツヅリヒメハマキという蛾の幼虫に葉を食い荒らされる被害も起きている
●岐阜県
県北地域での被害が多く、飛騨高山地方では郷土料理として名高い朴葉(ほおば)焼きの材料になる葉が、虫食いで壊滅状態に。幼虫は山の木々を食べつくし、成虫は森林から市街地へと大量飛来。それと同時に、マイマイガの生態研究も進む。’65~’66年に大発生したという記録が県内には残っているという
【マイマイガ】
ドクガ科に分類される蛾の一種。北アフリカ、ヨーロッパ、アジア、北米に広く分布し、森林害虫として知られている。雄は昼間活発に飛び回り、くるくる回っているように見えることから「舞々蛾(まいまいが)」と呼ばれている。
取材・文/北村土龍
―[毛虫が全国で異常発生のナゾ]―
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