橋下市長は「脱原発」を捨てたのか!?
ジャーナリスト。『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)編集協力、『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数
橋下徹・大阪市長のエネルギー問題のブレーンが集結、大飯原発再稼働に反対するなど原発推進の政府に対抗するシンクタンクとして機能してきた「大阪府市エネルギー戦略会議」が突然、休止に追い込まれた。大阪府から「違法の疑いがある」として、「9月17日の会議を中止する」といきなり通告されたのだという。
戦略会議は、今年2月27日から9月4日まで20回開催。政府よりはるかに厳しい「原発稼働八条件」を突き付けたり、「再稼働なしで夏をしのぐ電力需給計画策定」に取り組み、最近は脱原発を実現するための移行方法など中長期のエネルギー戦略の議論を開始、11月に取りまとめを出そうとしていた。
委員の一人である「環境エネルギー政策研究所」の飯田哲也所長はこう訴える。
「政府は、遅くとも泊原発が止まって全原発停止となる5月5日までに大飯原発再稼働をするつもりでした。エネルギー戦略会議が注目されることで、原発再稼働の安全性の根拠も電力需給不足の根拠もいい加減であることを世に知らしめた。松井知事と橋下市長に提言を出すだけではなく、日本全体のエネルギー政策を動かしているという自負を委員全員が持っていました」
そんな戦略会議がなぜ休止に至ったのか? 事務局の大阪府環境農林水産部は、こう説明する。
「今年春、府人事課が庁内の会議の調査を行い、『条例に基づかない会議が行政の付属機関に該当する場合、住民訴訟で敗訴の恐れがあるので条例で定めよう』ということになりました。戦略会議も付属機関と見なされる恐れがあると判断。議会で設置条例が成立する11月頃まで休止することにしました」
だが、「我々には一言も相談がなかった」「今が重要な時期で休止は大阪だけでなく、日本全体の損失」と考えた委員たちは9月17日、大阪市内で自主的に会議を開いた。無報酬で交通費も自腹、会場費は参加者から集めた500円を当てた。そして手弁当で駆け付けた委員からは休止への怒りが噴出。
元経産官僚の古賀茂明氏はこう訴えた。
「矛盾だらけの脱原発政策を出す政府に対し、戦略会議が異論を唱えるのは非常に重要。違法の恐れの話は5月に出ていたが、大阪市は『付属機関ではない』と判断して活動を継続していたのに、急に大阪府が中止の通告をしてきた。仮に訴えられても『違法ではない』と主張、勝訴すればいいだけの話です」
同じく委員の河合弘之弁護士も「我々の意見に反感を持つ勢力が『止める方法はないか』と仕掛けてきたのだろう」と語った。
「休止は素人の法解釈です。地方自治体の会議全てが条例の議決が必要な付属機関ではなく、判例を見ると、具体的な業務執行をする場合に限っている。例えば、ゴミ処理場を建設する業者や民間委託業者の選定を任す委員会は付属機関と見なされた。しかし我々の戦略会議は、日本のエネルギー戦略について議論していただけで、知事や市長の具体的な業務執行を補助する付属機関ではない」
不可解なのは、同じ弁護士である橋下市長の言動だ。「大いに疑問なところはある」と言いつつ「行政である以上、『法律を守らない』とは言えない。だから議会で環境整備(条例成立)をする」と休止を受け入れたのだ。
かつて長野県で環境保全研究所所長を務めた東京都市大学名誉教授の青山貞一氏は、こう話す。
「具体的な権限や権益と関係がない会議体は議会で議決を経ずに、行政の要綱で設置しても問題はありません。実際、私たちも田中康夫知事(当時)の依頼で条例案について要綱設置の会議で何回も検討をしましたが、県議会からの文句はゼロでした。ただ報酬は議会の議決が必要な予算の一部のため、知事と対立していた県議会に否決されました。そのかわり、勤務時間当たりの賃金(アルバイト代)が県から支払われ、会議が休止することはありませんでした」
9月9日の「日本維新の会」の公開討論会で「2030年までの原発ゼロを達成する具体策を専門家に検証していただいている」と明言した橋下市長。しかしその直後、脱原発の実現方法を議論していた戦略会議が休止となった。しかも会見では「11月に取りまとめるという予定は変わらないのか」との質問に対し、「基本的には戦略会議で決めてもらう」とトーンダウン。他人任せの官僚答弁に終始した。
橋下市長は、訴訟リスクの“幻影”に怖気づいたのか。それとも、「脱原発への熱意」自体を失ってしまったのだろうか……? <取材・文/横田一>
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