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実は武器輸出世界4位のウクライナ、高まる“核リスク”を検証する

ウクライナ

緊迫の増すウクライナ情勢

「当面の急務は各国が冷静さと抑制を保ち、情勢をさらにエスカレートさせないことだ」  3月10日、中国の習近平国家主席はアメリカのオバマ大統領との電話会談の中で、ウクライナ情勢をめぐって米国が発令したロシアへの制裁措置に、明確に反対する立場を示したという――。  専門家の間では、当初からアメリカの軍事介入は「ありえない」という見方がもっぱらだった。  ’08年の北京五輪直前にロシアが引き起こしたグルジア戦争の際も、さかのぼって、(これもモスクワ五輪の半年前だったが)’79年に旧ソ連軍がアフガニスタンに侵攻したときも、アメリカは軍を出していない。これに対しロシア側も、アメリカが本格介入したベトナム戦争において直接的な関与は避けている。つまりこの2つの大国は、核の大量保有国同士の「馴れ合い」の下、直接戦火を交えることなく、互いに牽制を繰り返すという歴史を共有してきたとも言えるのだ。  ただ、これもアメリカという超大国が、ストッパーとして機能していたからに他ならない。今回のオバマ・習近平会談を見ても如実にわかるように、アメリカの威信低下は著しく、国内的にも“レイムダック化”が進むオバマ政権が、経済制裁や外交の根回しのみで事態を収束できるのか……まだまだ先行きが見えないというのが正直なところだ。  しかも、混乱の長期化で、この2つの国の直接対決とは別の、新たな問題を懸念する声も出てきている。今回紛争の当事国となっているウクライナが、極めて深刻な“核リスク”を抱えている点だ。  ロシア情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所の名越健郎教授が話す。 「旧ソ連最大の重工業地帯だったウクライナ東部は、現在も軍需産業の一大集積地であり、ロシアをはじめ世界に輸出している。中国初の空母・遼寧も、もともとはウクライナ海軍のヴァリャーグを中国が購入し、改造したものです。ほかに輸出できるような産業がないウクライナは、実は世界第4位(’12年)の武器輸出大国なのです。ミサイル技術なども高いレベルにあり、ウクライナの不安定化によって、これら先端軍事技術の流出が懸念される……。また、混乱がさらに長引けば、国家管理下にある生物兵器や化学兵器などの大量破壊兵器が国外に持ち出される危険性もあるでしょう」  ヤヌコビッチ政権崩壊後、300億ドルほどの債務を抱えるウクライナは、一時デフォルトの危機に陥っていた。その後、EUが150億ドルの支援を決定したことで、何とか最悪の事態は免れたものの、今回の混乱が収まらない以上、破綻のリスクを完全に払拭したことにはならない。当然、こうした不安定要素が、ウクライナの“核リスク”を最大化してしまう可能性があるというのだ。名越氏が続ける。 「かつてウクライナは世界第3位の核保有国でした。ソ連からの独立に伴いこれらは廃棄されたので、現在は核兵器を持っていませんが、核開発技術やミサイルの先端技術を持ち、核兵器の材料となるウランの生産量は世界第9位と、核兵器を製造する条件は整っている。また、原発も15基が現在稼働しており、この中にはプルトニウムを取り出しやすいチェルノブイリ型の原発も含まれます。ウクライナはNPT(核拡散防止条約)に加盟しているものの、核兵器をつくろうと思えばつくれてしまうのです」  さらに、この負のスパイラルは、現在、威信の低下が危ぶまれているアメリカに及ぶことも十分考えられるという。 「最悪なのは、流出した大量破壊兵器がテロリストの手に渡ること。アラブの春でも、カダフィ政権が崩壊したリビアから大量の武器が、アルカイダ系のテロリストに流れましたが、これと同じことが起きる可能性がある……。アルカイダ系テロ組織が入手した大量破壊兵器の標的となるのはアメリカです。直接の軍事介入はしないが、アメリカがもっとも怖れているのはこうした事態。すでに米インテリジェンス機関がウクライナに入り、監視を強めているという状況です」(名越氏)  パラリンピックへの首脳参加のボイコットや6月に開催されるソチでのG8サミットの不参加、一連の経済交渉の停止、さらに、ウクライナの独立を脅かす個人や団体の資産凍結やアメリカへの渡航禁止……。  現在、ロシアの翻意を促すため多くの制裁案が出ているが、名越氏は「アメリカにできるのはせいぜい経済制裁くらいでしょう」と話す。  果たして、事態の収束をはかる“落としどころ”はどこにあるのか、しばらくは目が離せそうにない。 <取材・文/日刊SPA!取材班>
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