ニュース

隣で核保有国が侵略戦争を行っている状況で「軍事抜きの外交」など論外/倉山満

隣で核保有国が侵略戦争を行っている状況で「軍事抜きの外交」など論外

 我が国の岸田文雄首相は、サミットの後にNATO(北大西洋条約機構)の首脳会議に参加した。選挙中だったにもかかわらず、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)だ。
NATO首脳会議 トルコのエルドアン大統領

トルコのエルドアン大統領(写真中央)は、NATO首脳会議で安全保障体制を強化したい欧米の思惑を利用し、北欧2国のNATO加盟承認の見返りにテロ対策への協力を取り付けた 写真/AFP=時事

 それはさておき、ウクライナ事変において英米の側に立ちロシアを敵に回した以上、同盟国かつ事実上の参戦国としてNATOの側に立つ姿勢を鮮明にするのは意味があると考える。ただし、隣国の核保有国が侵略戦争を行っている状況で「軍事抜きの外交」を行うなど論外だ。当然、ロシアの報復による電気不足ガス不足にも備えをしているのだろう。岸田外交の中身には、厳重な監視と適切な批判が必要だろう。

首相が誰であろうと、イギリスのプーチンへの怨念は深い

 ウクライナ事変は、一進一退の膠着状態だ。ウクライナに肩入れして事実上の当事者と化しているイギリスのジョンソン首相は内政問題で批判が強まり、退陣を余儀なくされた。  ただ、首相が誰であろうと、イギリスのプーチンへの怨念は深い。プーチンはイギリスに亡命したロシア人を、何人も暗殺している。これはインテリジェンス(つまりスパイ)の世界の仁義に反する。イギリスがこの政変でロシアへの態度を変えるか変えないか、見ものだ。  またプーチンはインテリジェンス工作のみならず、’08年ジョージア、’14年クリミアと、我が物顔で軍事侵攻。これに欧米諸国は手をこまねいてみていただけだった。おそらく、この時からイギリスは復讐の準備を始めていたのだろう。英米はウクライナに肩入れ、軍事支援を施してきた。英米式の訓練を受けたウクライナは今も強大なロシア相手に善戦している。我々も、あやかるべし。

プーチンはウクライナ事変の落としどころをどこにもっていく気か

 そのウクライナ事変だが、既にプーチンの負けが確定した。プーチンがウクライナに侵攻した大義名分は、「NATOの東方拡大阻止」だった。NATOとはアメリカとヨーロッパの軍事同盟のこと。  親NATOを続けるウクライナを掣肘(せいちゅう)せんと侵攻したら、伝統的に中立政策を採ってきたスウェーデン(瑞典)とフィンランド(芬蘭)がNATOに加盟した。これでは何のためにプーチンはウクライナに侵攻したのか、意味がわからない。落としどころをどこにもっていく気か。  この瑞芬両国のNATO加盟において最も得をしたのはトルコだと、国際的に評価されている。ロシアの脅威に際し、NATOに入りたいと思うのは人情だ。ただし、NATO加盟は、既に加盟している国の全会一致でなければならない。  ここでトルコは、「瑞芬両国はトルコに敵対しているクルド人を支援し、トルコを締め出している」と非難した。あからさまな条件闘争だ。結局、瑞芬両国は折れ、トルコの要求を丸呑みした。トルコは他人の弱みに付け込み、獲るべきものを獲った。見上げた外交力だ。ちなみに瑞芬両国も織り込み済み。国際社会とは、このような駆け引きで成り立っている。同盟を結び維持するのは戦をするのと同じ労力を要する。
次のページ
トルコを日本も見習うべきだ
1
2
3
1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

噓だらけの日本古代史噓だらけの日本古代史

ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作は、日本の神話から平安時代までの嘘を暴く!


記事一覧へ
おすすめ記事