死を間近にした友人にかけるべき言葉は?【佐藤優のインテリジェンス人生相談】
【佐藤優のインテリジェンス人生相談】
“外務省のラスプーチン“と呼ばれた諜報のプロが、その経験をもとに、読者の悩みに答える!
◆相談者 ドラ猫さん(ペンネーム) 自営業 男性 43歳
死を前にした友人にかけるべき言葉はありますか? 友人がガンで入院しました。これで2度目になりました。そんなに長くないらしいのです。お見舞いに行っても何を話したらいいのかわかりません。それに、もし自分が同じ立場になったらと思うと涙が出てきます。そんな友人にどんな言葉をかけたらいいのか……佐藤先生、頼みます。
◆佐藤優さんの回答
人には皆、個性があります。一人ひとりの人生は異なっています。しかし、どの人にも避けられないことがあります。それは死ぬということです。ドラ猫さんも私もいつか必ず死を迎えます。誰も自分の死を体験することはできません。なぜなら、死んでしまったら、こちら側の世界に戻ってくることができないからです。「臨死体験をして、死後の世界を見た」と言う人もいますが、その人も死んだわけではないので、死を体験したとはいえません。私たちは、他人の死によってしか死について知ることができないのです。
ドラ猫さんも「自分もいつか死ぬ」と意識しながら、ガンで入院した友人のそばにいてあげることが重要と思います。相手に何を話したらいいかということについて悩むよりも、相手の話をとことん聞くことが重要と思います。そうすれば、必要な言葉がドラ猫さんの心の中から自然に出てきます。ただし、注意してほしいのは、ガンで痛みが激しくなった人は、他人の心を傷つける厳しいことを口にする場合があります。痛みは人の性格を変化させます。そのときも友人のそばにいてあげることがとても重要と思います。
真面目な哲学者や思想家は、例外なく、死について真剣に考えます。私はロシアの宗教哲学者ニコライ・ベルジャーエフ(1874~1948)の死に関する思索から多くを学びました。少し難しい表現ですが、ベルジャーエフが死について説明した文を引用しておきます。
<人格の成就はしかし、あらゆる意味の奴隷状態の克服であり、すべてにたいする主権の掌握である。人間の最後の奴隷状態は、死による奴隷化である。社会的ユートピアあるいは組織構成のいかなるものも、この奴隷状態にたいする勝利を知らない。しかし死にたいする勝利は同時に死の秘義を承認することを意味する。死にたいする関係は二律背反的である。人格の成就は同時に社会的および宇宙的な生の共同体の成就、死を伴う孤立化の克服である。共同体の成就は死の恐怖をもはや知らないことである。愛は死よりも強い。愛によって共同体に統一された者といえども別離をまぬかれない。しかしこの別離はその悲劇性にもかかわらずたんに外からの、客体化された世界からの死にすぎない。内からするとき、これは生の道程である。>(『ベルジャーエフ著作集第四巻 孤独と愛と社会』274~275頁)
ベルジャーエフの考えを言い換えると、こうなります。「どんなに豊かな人、理想社会を考える人でも、死に対しては無力だ。もっとも人は死んでも、眠っているだけで、いつか必ず復活する。そして、愛し合う者たちは再会することができる」。なかなかベルジャーエフのような境地に達することはできませんが、死が永遠の別れではないというキリスト教の考え方はわれわれに力と勇気を与えてくれます。
【今回の教訓】
話す前に、相手の話をとことん聞くこと
【佐藤優】
60年生まれ。85年に外務省入省。在英、在ロシア連邦大使館、国際情報局分析第一課で活躍。02年に背任の容疑で逮捕。『インテリジェンス人生相談―復興編―』(小社刊)が好評発売中’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『「ズルさ」のすすめ』『人生の極意』など著書多数
◆募集◆
佐藤優さんへの相談を募集中。匿名希望の方はペンネームを記入してください。採用者には記念品をお送り致します。⇒応募はコチラから https://nikkan-spa.jp/icol_form
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◆今回の参考文献 『ベルジャーエフ著作集〈第4巻〉孤独と愛と社会』 神秘主義に基づき、歴史問題を論じたロシア人哲学者による著作。孤独を解消しようと社会や集団に埋没するほど我を失い、孤独に苛まれると論じる。75年刊 |
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