戸籍上「存在しない」子供たちの現実――文字が書けない、友人ゼロ、将来の不安も…
子供の貧困について考えるとき、忘れてはならない問題がある。それは「無戸籍者」の存在だ。日本で生まれたのに戸籍登録されず、学校に一度も通ったことがない。そんな過酷な環境で暮らす子供たちが、確かに存在しているのだ。
元衆議院議員としてこの問題に取り組み、これまでに1000人以上の無戸籍者を支援、書籍『無戸籍の日本人』に彼らの現状をまとめた井戸まさえ氏に聞いた。
「親の虐待によってそもそも出生届が出されていなかったり、貧困のために出産費用が払えず、病院から出生証明書を受け取っていなかったりと、無戸籍の子供たちが生まれてしまう原因はさまざまですが、なかでも多いのは、夫のDVから逃げ出した女性が、籍を抜けられないままに別の男性の子供を妊娠するケースです。現在の法律では、離婚が成立しないうちに出生届を出すと、血のつながりとは関係なく、夫の戸籍に入れられてしまいます。しかし離婚の協議をしようにも、女性はDV夫に居場所が知られるのを恐れ、行動を起こせない。そのため、無戸籍のまま育てることになってしまうケースがあるのです」
こうして生まれた無戸籍者たちは現在、推定で1万人以上いると井戸氏は言う。
◆自宅で学習、友人はゼロ。文字が書けない子供も
無戸籍の子供をめぐる大きな問題は、教育を満足に受けられないことだろう。無戸籍でも小中学校に入学することはできるが、親がその制度を知らず、自宅学習で育てられる子が少なくないのだ。
「そのため友人が一人もできず、コミュニケーション力に乏しいまま成長してしまうのです。これまで支援してきた人の中には、成人でも文字が書けない人もいました」
もし小中学校に通えても、高校にまで進学できる無戸籍者はほとんどいない。そのため若くして働きに出る人が多いが、職探しにも困難が待ち構える。
「公的な証明書がなければアパートも携帯電話も契約できず、銀行口座も開けない。だから、身元の証明を求められない水商売やアルバイト、もしくは日雇い労働者くらいしか、働き口がないのです」
しかも国民健康保険に加入できないため、病気をしたら医療費はすべて自己負担。予防接種や健康診断などの行政サービスも受けられない。常に不安と隣り合わせのまま生きていくことになるのだ。
さらに、マイナンバー制度の運用が始まることで、水商売やアルバイトでも、雇用先にマイナンバーの登録が求められる。だがそもそも、無戸籍者にマイナンバーは届かない。今後、彼らは限られた働き口さえなくしてしまう可能性があるのだ。「そうなれば、ただでさえ苦しい生活を強いられているのに、無戸籍者はますます困窮する」と井戸氏。
成人の無戸籍者には子供がいる人もおり、恵まれた環境でなくとも必死に育てている。しかしこのままでは、無戸籍者たちはますます追い込まれ、貧困の連鎖が続いていくことになりかねない。それを防ぐためにも、戸籍制度の根本的な見直しが急務だ。
【元衆議院議員 井戸まさえ氏】
’05年より兵庫県議会議員を務め、’09年、衆議院議員に初当選。現在、NPO法人「民法772条による無戸籍児家族の会」代表。著書に『無戸籍の日本人』(集英社)など
<取材・文/小山田裕哉>
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『無戸籍の日本人』 自らの子も無戸籍となった経験を持ち、過去13年間に1000人以上の無戸籍者とその家族を支援し続けてきた著者だからこそ書くことができたノンフィクション! |
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