カモ専用の入金督促特設会場――連続投資小説「おかねのかみさま」
みなさまこんにゃちは大川です。
『おかねのかみさま』53回めです。
きょうも六本木SLOW PLAYで書いてます。
※⇒前回「こんなとこ」
〈登場人物紹介〉
健太(健) 平凡な大学生。神様に師事しながら世界の仕組みを学んでいる
神様(神) お金の世界の法則と矛盾に精通。B級グルメへの造詣も深い
死神(死) 浮き沈みの激しくなった人間のそばに現れる。謙虚かつ無邪気
美琴(美) 普通の幸せに憧れるAラン女子大生。死神の出現に不安を募らせる
村田(村) 健太が師と崇めるノウサギ経済大学の先輩。元出版社勤務
ママ(マ) 蒲田のスナック「座礁」のママ。直球な物言いが信条
学長(学) 名前の由来は「学長になってもおかしくない歳のオッサン」の略
〈第53回 グェ〉
村「あのな健太、俺は去年すげぇ映像を見たんだよ」
健「はい」
村「多摩川の向こうに川崎って場所があるのを知ってるか?」
健「はい。しってます」
村「川崎でな、去年火事があったんだ。簡易宿泊所ってとこで、まぁ安い旅館みたいなとこなんだが、全焼して、10人が死んだ」
マ「ニュースでやってたわね」
村「うん。あのとき、火が回る様子がテレビで流れてたんだけど、テレビの音声に絶叫が入ってたんだよ」
マ「なんて?」
村「『こんなとこで死にたくねぇよーーーー!!!!』って」
健「……」
村「仕事からくたびれて帰ってきた俺は目が覚めちゃったね。その言葉を叫んだ男が助かったかどうかは知らねぇが、とにかくショックだった。逃げられない場所で、助けが来なくて、予定していた死に方とまったく違う最期が目の前に迫っている。『こんなとこ』で暮らしていることは辛うじて受け入れていたけれど、なにも報われないままに『こんなとこ』で背中を炎に焼かれてる。ひとりの人間が受け入れがたい現実に直面したときの叫びに、俺は心臓が締め付けられる思いがしたんだよ。健太、それに比べたらお前は単なるノーマルカモで、騙す連中から見たら死なない程度に追い込まれただけだ。生きろ。強くなれ。これくらいのことは自分で解決して…」
学「ワシが貸したげるよ」
村「おい」
健「ほんとですか!!!!!」
マ「よかったじゃなーい♡」
村「ジジイ、余計なことすんな」
学「76万円だっけ?貸したげるよ。そのかわり、なんか担保がほしいな」
健「ありません」
学「だよねー。ほんとそうだよねー」
健「すいません…」
学「じゃあ無担保で、月1万円の100回払い」
健「!!!!ひゃくまんえん?」
学「いやならいいよーん」
健「100回払いって…8年4ヶ月…えっと…僕35歳…うーんえっと…」
村「ジジイお前そんなカネあるのか?」
健「でも…月1万円なら…」
学「どうする?」
健「お、おねがいします!!!」
学「契約せいりつー。じゃあ、借用書かくねー」
健「は、はい!」
学「けんたくんは、これから、毎月、1万円ずつ、ワシに返します。担保は特にあり、ませ、んと」
マ「シンプルねー。こんなのでいいの?」
学「まぁ結局払えないって言われたらもらえないからな。それでもこういうことをキチッとしておくのも、健太くんの勉強じゃ」
村「…」
学「じゃあ健太くん、ここにサインして」
健「はい!」
学「よし。それじゃあ今月末から、君は毎月ワシに1万円を返すこと。いいね」
健「はい!ありがとうございます!」
村「ジジイ…あのな…こいつが馬鹿のまま過ごす時間が8年くらい延長されただけなんじゃねぇのか?」
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