素顔のホーク・ウォリアー=マイク――フミ斎藤のプロレス読本#010【Midnight Soul編5】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
1992年
バスの前方には大きなTVモニターとビデオ・デッキが設置されていて、タイガー服部が座っている最前列の席のすぐよこのサイドボードのなかには何百本というビデオが山積みになっていた。
長時間の移動では、ビデオを観るか寝るかしか時間のつぶしようがない。
「オレに選ばせてくれ」といってホーク・ウォリアーが立ち上がった。ホークは仕切り屋さんのようなところがある。
「アクション、アクション。血と肉とカーチェイス!」映画好きのトニー・ホームが大声をあげた。
缶ビールを片手にホークがゆっくりとバスの前方まで歩いてきて、運転席の後ろにある照明のスウィッチを全部オンにした。バスのなかが急に明るくなった。
ビデオの山をひっくり返しながら服部とあれこれしゃべっているうちに、ホークがなんとなくこっちを向いた。
「フミ! フミ・サイトーじゃねえか。なんだ、さっきからいたのか? 全然、気がつかなかったぜ。ケンスキーがいるもんだとばかり思ってたぜ。それともなにかい、ずっと知らん顔でも決めこもおうとしてたってわけかい?」
サイドボードのよこの冷蔵庫から缶ビールを急いで2本つかむと、ホークはこちらに向かって歩いてきて、あいさつ代わりのように軽く――レスラーが軽くやったつもりでもかなり痛い――ショルダーブロックのようにぶつかってきて、それからにっこり笑って冷えたビールの缶をぼくの腕に押しつけた。
べつに何年ぶりかの再会というわけではないけれど、ふだん着のホークとこうしておしゃべりをするのは久しぶりだ。
アリーナのバックステージで顔を合わせることもあることはあっても、顔にペインティングをほどこしているときのホークは身も心も戦士Warriorになっているときだ。
わりとフツーに会話をしているようなところを目撃されてはいけない人たちに目撃されるたりするとやっぱりイメージダウンだろう。だから、ぼくも試合会場ではできるだけ接触しないようにしていた。
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