深夜のフリーウェイをTOKYOへ――フミ斎藤のプロレス読本#009【Midnight Soul編4】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
1992年
いつのまにかバスは数百人のファンに取り囲まれていた。前方のウインドーから外を見わたすと、体育館の裏口と日本人選手用のバスとこのバスとを結んでちょうど正三角形のような形で群集ができあがっていた。まるでぎゅうぎゅうづめの満員電車のような状態だ。
「なあ、サイトーよぉ、これがあるから、みんなやめられないんだよな。ああ、うるせえなあって思う日もあるけどさ、引退しちゃったら、だれも寄ってきやしないんだもん。だから、やめられないんだよ」
「はあ、そうですか」彰俊は、越中のことばにていねいにうなずいた。
アリーナの通用門のところでは、人気者の武藤敬司が足止めを食っていた。ちょっと離れたところには蝶野正洋もいる。これだけの数のファンがおしくらまんじゅうをはじめたら、いくら体が大きくて力が強いプロレスラーだって身動きがとれない。
べつのところでは、メインイベントの試合を終えたばかりの馳浩の姿もみえた。若手グループと警備員がファンの集団のまえにロープを張って選手たちをバスのところまで誘導しようとしているが、まったく効果がない。
「おお、ガイジンはどうしたんだよー、ガイジンは。もう10時だぜ。夜が明けちまうよ」
越中がいら立っている。そういえば、とっくに試合を終えているはずの外国人選手たちがいっこうにバスに乗ってこない。
日本人選手たちのほとんどが無事にバスに乗り込んでからしばらくすると、こんどはさっきと同じ通用門に外国人選手の集団が現れた。みんなすでにシャワーを浴びてふだん着に着替えていた。きっと、メインイベントの試合を最後まで観ていたのだろう。
ガイジンの大移動はじつにかんたんだった。集団の先頭に立ったひとりが、大声をあげながら群集のなかに飛び込んでいった。おしくらまんじゅうをしていた数百人のファンは、それこそ蜘蛛の子を散らすように逃げ惑った。満員電車が散りぢりばらばらになったところで、レスラーたちはいっせいにバスのところまで走ってきた。
ホーク・ウォリアー、スコット・ノートン、ブラッド・レイガンズ、ジム・ナイドハート、エディ・ゲレロ、エル・エンヘンドロ。レフェリーで外国人選手の世話係のタイガー服部もいる。大男たちがひとりず座席を占領していく。だれひとりとして、ぼくがこんなところにちゃっかり座り込んでいることに気づかない。
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