サブゥーのターバンは病床のシーク様へのグリーティング――フミ斎藤のプロレス読本#085【サブゥー編エピソード5】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
サブゥーの頭の上にちょこんと乗っかっているターバンは、偉大なる伯父ザ・シークからの借りものである。左腕の上腕部に巻かれたテーピングには“SHEIK”という文字がフリーハンドで描かれている。
シークとは家長、村長、あるいは教主を意味するイスラム教の人称代名詞。アメリカのスラングでは、とんでもないお金持ちなんかにも“シーク”という単語が用いられることがある。
もちろん、サブゥーにとってはシークといえば“アラビアの怪人”ザ・シークしかいない。
伯父上は、こともあろうにサブゥーのいないところで生命にかかわるようなアクシデントに見舞われてしまった。大仁田厚の引退試合がおこなわれた夜、シーク様はホテルのロビーで心筋梗塞でぶっ倒れ、都内の病院に入院してしまった。
ほんとうはもうやめてくれたほうがいいのに、シーク様はリングに上がること、観客のまえで試合をすることをあきらめきれない。FMWは大仁田のラストマッチとシーク様の引退試合をカップリングでプロデュースしようとしたが、このプランは具体化しなかった。シーク様が引退を拒んだのだった。
東京で約2週間の入院生活をおくったあと、シーク様はごくふつうにベッドから起き、成田から飛行機に乗ってデトロイトまで帰っていった。このときは、平成維震軍のシリーズ興行を終えたばかりのサブゥーが伯父上に付き添った。しかし、トラブルは終わらなかった。
それから数日後、こんどはハートアタックがシーク様を襲った。もともと心臓と循環器系の働きには不安があったけれど、ガンコ者のシーク様はそれをずっと無視しつづけてきた。
いつのまにか呼吸器官の活動が弱くなり、心臓のすぐそばの太い血管には血栓がいくつも発見された。ドクターは緊急の切開手術をすすめた。
シーク様が病院のベッドによこになっているあいだ、サブゥーは伯父上のためになにか特別なことをしたいと考えた。シーク様のターバンにはスピリチュアルなパワーが宿っている、とサブゥーはとらえた。
「泣き言をいうな」「肉体的な苦痛を選べ」「立って歩けるうちはリングに上がれ」がシーク様の教えである。じっさい、サブゥーが最高のコンディションで試合にのぞむなんてことはめったにない。首も腰もガタガタだし、臀部や大腿部の骨はヒビが入ったままの状態になっている。
バンプをとるたびに右半身にしびれが走る。それでもシーク様の甥ならば“自殺ダイブ”をやめるわけにはいかない。
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