富田林の逃走犯が「西成区あいりん地区」に潜伏している可能性は?
8月12日に大阪・富田林警察署から逃走した樋田淳也容疑者(30)。尼崎市をはじめ、「似た男」の目撃情報があるものの、依然としてその足取りはつかめていない。容疑者は富田林市から北に向かって逃げているということもあり、ネット上では潜伏先の1つとして西成区あいりん地区もあがっているようだ。同地区は2007年、千葉県市川市で起きたリンゼイ・アン・ホーカーさん殺人事件の容疑者、市橋達也が身を潜めていたことでも知られているが、今回もその可能性はあるのか? あいりん地区に住む人々に話を聞いた。
富田林警察署から北東に20キロメートル進んだ場所に位置するあいりん地区。容疑者の潜伏先としてまっさきにあげられてもおかしくないこの地区では、今回の事件はどのように映っているのか? あいりん地区のドヤ(簡易宿泊所)で清掃の仕事をしている男性Aさんはこう話す。
「その事件のことは知っているが、この街ではあれくらいではそこまで話題にならない。あんな逃走犯に構っていられないほど、この街には話題が豊富だからな。薬物中毒、性犯罪、殺人、色んな罪を犯した人間が集まっている。富田林の逃走犯があいりん地区にいようといまいとそこまで関心が湧かない」
今年の2月に西成区の民泊施設で女性の遺体の一部が発見された事件の際も、当のあいりん地区ではさほど話題にはなっていなかった。悲惨な事件ではあったものの、「その類の事件は大小含め、よくあることだからな」とAさんは言う。
周りの関心が容疑者にそこまで向かないのであれば、潜伏先としては可能性があるかもしれない。しかしながら、現在あいりん地区では常に自転車、パトカーに乗った警察官がパトロールをしている。かなり狭い地区ではあるものの、1人2人といった数ではない。職務質問にもかなり力が入っており、自転車に乗っているだけで「身分証の提示をお願いします」と声を掛けられる。とにかくしらみつぶしに捜査をしているといった感じだ。前出のAさんがこう続ける。
「潜伏先としてあいりん地区が浮かぶのも分かるが、あれだけ顔が出ている容疑者が住めるような場所ではない。パトロールというよりあれはもう張り込みみたいなもんだ。毎日にように報道されている今の段階では、わざわざ危険を冒してまでこの街にはこないだろうな」
また、自身も刑務所での服役歴があり、現在はあいりん地区で解体業に就いているOさんの話では、
「刑務所、留置所って場所はな、自分の犯した罪を振り返って反省するところではないんや。もちろんなかには真面目な人間もおるけど、基本的には情報交換の場所や。受刑者同士で知恵を交換し合って出所後にどうやって生きていくか考えるんや」
とのことだ。ここでいう “出所後の生き方” とは、どう更生していくかという観点ではなく、どんな犯罪が金を稼ぐにはいいかに尽きるという。塀のなかで知り合った人間同士が、出所後にグループを作り新たな犯罪に手を染めるというケースも往々にしてある。大阪・富田林の留置所に拘留されていた樋田淳也容疑者。おそらくあいりん地区の現状は耳に入っているだろう。
樋田淳也容疑者は逃走後、大阪市内でひったくりを繰り返した。逃走犯が直面する問題、それはやはり金銭面であろう。あいりん地区には「あいりんセンター」と呼ばれるハローワークがある。ここには建築関係の仕事をあっせんする人間が数名おり、市橋達也もこの場所で仕事を見つけ逃走資金を稼いでいた。西成区内のある飯場(建設会社の寮)で働く男性がこう話す。
「市橋事件の影響もあって、飯場に入る場合も身分証の提示などが必要になったんだけど、それはあくまで表向きの話だよ。実際のところ免許証も保険証も見せなければ、偽名を使っていてもバレない。会社側も『みんな色々あるから』というスタンスで何も聞いてきやしない。おそらくこの街には逮捕状が出ている人間が何人もいるだろうね」
報道が過熱している今、樋田淳也容疑者は各地を必死で逃げ回っている状況ではあるが、タイミングを見計らって仕事を求めにあいりん地区にやってくる可能性はあるかもしれない。一刻も早く身柄を確保されることを願うばかりだ。<取材・文・撮影/國友公司>元週刊誌記者、現在フリーライター。日々街を徘徊しながら取材をしている。著書に『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)。Twitter:@onkunion
富田林の逃走犯は西成にいるか?
街には警察官がウジャウジャいる
逃走犯でも仕事にありつける可能性アリ
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