日本株価低迷の要因は、名目GDPの低迷にあり!
◆マネーな人々 今週の銭格言
【選者】政治経済学者 植草一秀氏
2010年の日本の名目GDPは479兆円と1992年の水準を下回り、18年ぶりの低水準を記録した。それに連動する株価は企業収益名目値予想をベースに決定されるため、日経平均株価の上昇には政府の経済政策が鍵を握るのだが……。
【今週の数字】
日本の名目GDP過去最大値
515兆6441億円
日本の名目GDPは1997年の515.6兆円をピークに以来、減少傾向が続いている。そして、2010年の名目GDPは479兆円と、1992年の水準を下回ってしまった。景気自体を示すGDPの低迷は株価に連動してしまうのである
予想通り、日経平均株価の低迷は続き、本格的な出直りの機運は乏しい。株式を評価するには企業収益、保有資産、経営権の3つがあるが、通常、株価決定の主因となるのは企業収益だ。現在から将来にかけての1株当たり企業収益の割引現在価値。これが、経済学の教科書に出てくる株価決定理論である。
これを日経平均のような経済全体を表す株価で考えた場合、日本経済全体が生み出す企業収益が問題となる。このとき、気をつけなければならないのは、これらの数値がすべて“名目値”という点だ。
経済成長率などを論じるとき、一般的にインフレ率を差し引いた実質成長率が問題とされる。ところが、株価は名目値が問題になる。
そこで、日本のGDPを振り返ると、驚くべき事実が明らかになる。名目GDPは過去19年間、全く増加しておらず、2010年の名目GDPは479兆円で、ほぼ1991年の水準なのだ。
最近の推移を見ると、2007年には515兆円まで拡大。過去最大値付近まで迫ったが、サブプライム危機に端を発する世界同時不況で再び減少に転じ、480兆円を下回ってしまったのだ。
株価と比較して見ると、名目GDPと連動していることがよく見てとれる。つまり、株価が現在から将来の企業収益の予想に連動して決定されることと辻褄が合うのだ。
’80年代後半のバブル経済の時代には、名目GDPが急激に増加。この「右肩上がり」がなお持続するとの見通しが支配し、連動する形で株価が急騰した。ところが、’90年代に入って急激な景気後退が生じ、見通しは大幅に修正。株価が急降下した。
詳細は下図を参照してほしいが、1992年以降は株価が名目GDPの変動と連動してきたことがわかる。
その中で、1996年と2000年に株価上昇局面があったが、これらは経済政策によって撃墜。株価は大幅に下落へと転じてしまう。このようなメカニズムで株価が下落した場合、注意すべきは資産価格下落が人々の支出行動を抑制し、新たな景気悪化要因を生むということだ。
小誌4月19日号に記述したが、菅政権の2011年度予算が、過去最大の超緊縮財政になっている。
4兆円の第一次補正予算が成立したが、1.5兆円は本予算からの使い回し。2.5兆円は増税で賄おうということだから、景気浮揚効果はない。今、何よりも必要なのは本格的な経済復興政策の実施。だが、総理の椅子にしがみつくことだけを考える菅首相の下で、政策対応が完全にマヒしている。
株価が大底をつける局面は大いなる投資チャンスではある。しかし、現政権の政策スタンスが超緊縮に向かっている局面では、株価は上昇に転じにくい。
増税は経済危機を乗り越えてからの課題と割り切って経済復興に専念しないと、悲惨な事態に陥るリスクがあると言える。
【選者】
政治経済学者 植草一秀氏
シンクタンク主席エコノミスト、大学教授などを経て、現在はスリーネーションズリサーチ㈱代表取締役。ブログ「植草一秀の『知られざる真実』」(http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/)も人気。著書に『日本の独立』(飛鳥新社刊)
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