更新日:2012年02月08日 19:10
エンタメ

文芸界インサイダー小説も!? 異色の同人誌登場

文芸あねもね

彩瀬まる、豊島ミホ、蛭田亜紗子、三日月拓、南綾子、宮木あや子、山内マリコ、山本文緒、柚木麻子、吉川トリコの10名が参加。価格380円、電子書籍サイト「パブー」で購入可能。

一冊の電子書籍が注目を集めている。『文芸あねもね』、東日本大震災へのチャリティを目的に10名の女流作家が集まり、刊行した同人誌だ。執筆者は2001年『プラナリア』で直木賞を受賞した山本文緒さんをはじめ、「女による女のためのR-18文学賞」歴代受賞者を中心とする若手作家9名、それぞれが一編ずつを寄せている。 通常、小説は作家が原稿を書き上げたのち、編集者とともに推敲を経たうえで発表されるのに対して、今回は参加作家たちによってすべての編集作業が行われ発売まで至った。また、映画化もされた『檸檬のころ』など青春小説が若い世代を中心に強い支持を集めながら、2008年末に休業を宣言、以降新作を発表することがなかった豊島ミホさんが書き下ろし作品を掲載していることも話題に。 執筆者のひとりで今回の企画の立ち上げに関わった宮木あや子さんに伺った。 ―――『文芸あねもね』はどのような経緯で生まれたのですか?  3月11日、私はちょうど海外にいたので実際に地震は体験していないのですが、被害の大きさを知るにつれ、大きなショックを受けてしまい、当初はまったく小説を書くことができませんでした。ただいつまでも立ち止まっているわけにはいかないと考え、震災から2週間ほど経ったときに(吉川)トリコさんと何かできないかという話をしたのが始まりで同人誌を作ることになりました。 今回の目的はチャリティなので、ともかく売れるものにしたかった。そこで、同じ賞の出身者など普段から繋がりのある作家さんにも参加してもらうおうと誘ったら、想像以上に多くの人が賛同してくれて。なかでも山本文緒先生からも『ぜひ私も一緒に』とメールをいただけたのは本当に嬉しかったですね。 ネームバリューの大きさももちろんありますが、山本先生は『R-18文学賞』の選考委員をずっと務められていた方、いわばこの賞の出身者である私たちをこの世界にひきあげてくれた恩人。そんな山本先生と一緒に同人誌をつくることができるなんて想像できませんでした。 ―――なぜ電子書籍という形態に?  企画が立ち上がった当時は震災被害により紙やインクが不足している状態でしたし、多くのお金を送るため、経費がかからないよう電子書籍という手段を選びました。ただ普段、私たちの小説を読んでくれている人は紙の本が好きで、電子書籍には馴染みが薄いって人が少なくないかなという不安はありましたね。公式サイトに電子書籍が初めてという人向けに購入ガイドを載せているほか、豊島ミホさんによる買い方説明まんが『文芸あねもね読むまで物語』も販売サイトのパブーさんで読むことができるので、なんとなく抵抗がある人もこれを機に電子書籍デビューをしてくれたらなって思っています。 ―――お勧めのポイントを教えてください。  見所は本当にすべて。作品のテーマも長さも本当に人それぞれですが、どれも素晴らしい作品だと自信を持ってお勧めすることができます。イラストやデザインも本当にステキで、物語を引き立ててくれています。 ―――今後の展開は?  まだ調整中なのですが、出版社さんからもいろいろとご連絡をいただいていますので、この同人誌をさまざまなかたちで発展させることができるかもしれません。ただ当面の目標は『あねもね』をたくさんの人に読んでいただき、たくさんのお金を寄付できるようにすること。8月26、27日には名古屋でイベントも予定していますのでぜひ遊びにきてください。  思わず「どこまで実話? ぶっちゃすぎでは!?」と突っ込んでしまう私小説や、あの文壇の大家や疑惑の文芸賞などが思わず頭をよぎってしまう文芸界インサイダー小説など、同人誌でなければ読むことができなそうな作品もあり、380円という価格からは考えられないほどの内容の充実っぷり。売上は全額被災地に寄付される。復興への小さな善意が新たな物語の出逢いを生んでくれるかもしれない。 【文芸あねもね 公式ブログ】 http://charity-d.jugem.jp/ ↑イベントの詳細、最新情報はこちらから ◆電子書籍サイト「パブー」内『文芸あねもね』販売ページ http://p.booklog.jp/book/29199 取材・文/江口裕人
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