ばくち打ち
番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(15)
2004年5月にオープンした澳門金沙(マカオ・サンズ)は、マカオ経済にまるで冗談みたいなインパクトを与えた。
2004年第2四半期のマカオのGDP(国内総生産)が、前年比54.1%も増加したのである。
以降、続々とメガ・カジノの開業があり、マカオ経済は年平均20%前後の勢いで成長した。
この急成長に最初に翳りが出たのは、2010年にふたつメガ・カジノがシンガポールでオープンしてからである。
成長の勢いは鈍ったといえども、それでも経済の急激な規模拡大は2014年までつづいた。
2014年、アジア太平洋観光協会(Pacific Asia Travel Association)は、2018年までに、マカオの年間観光収入(カジノの「売り上げ」を含む)は2699億USD(30兆円弱)となり、アメリカおよび中国本土を抜いて世界一になる、と予測した。
人口、たった63万人の都市なのに(笑)。
まあ、「千代田区の皇居を売れば、カリフォルニア州全部が買える」なんて吹かれた1980年代末の日本の土地バブル経済と同じで、そんなにおいしい話が長続きするわけはなかろう。
シンガポールそしてマニラでのメガ・カジノ群の開業で、翳りが見え始めたマカオの急激な経済成長に、さらなる負の因子が加えられていく。負の因子はいくつかあったのだが、その中でも衝撃的な打撃を与えたのは、「蠅も虎も叩く」とする北京政府の「反腐敗政策」だった。
2015年、マカオのGDPは、前年比マイナス24.4%と収縮した(世界銀行統計)。それから2年ほど停滞期があり、今年(2017年)になって、またポジティヴな成長に戻っている。
市場関係者の予測を総合すれば、「底は打った」となるらしい。
現時点では「底」の状態ながら、マカオの一人当たりの国民所得は880万円。
日本の国民所得なぞ、遠の昔に追い抜いてしまった。
しかも、所得税ほぼゼロ、社会保障費ゼロ、消費税ゼロ、医療費もほぼゼロ。収入は、ほとんどがそのまま自分のものとなる。
それだけではなくて、農暦新年には政府が全マカオ人に「お年玉」をくれたりする(笑)。
大陸と地続きなので、物価は相対的に安い。
一人当たり880万円の国民所得は、実質的に日本のそれのゆうに3倍くらいには感じられるはずだ。
2004年以前のマカオを知る者として、まさに隔世の感がある。
なぜそんな奇蹟のごときことが、基本的には中国共産党政権にコントロールされている「一国二制度」のもとで、出現したのか?
全部とは言わないが、その理由の最大のものは、ライセンスを公開入札制とし、カジノ事業に外資を導入して、互いを競合させたからだった。
そして、もうひとつの理由としては、カジノにジャンケットとプレミアムでのキャッシュ・バックを制度として導入し、大陸からの「ハイローラー」たちを盛大によび込めた部分にある、とわたしは思う。
後者によって、それまでぶっちぎりに世界一だったラスヴェガスの「売り上げ」を、あっと言う間に追い抜いた。追い抜いたのみならず、マカオのカジノはその6倍超の「売り上げ」を記録したのである。
以上、マカオ経済とそれにおよぼしたジャンケット事業者との関係を長々と書いてきたが、ここいらへんで本(2017)年中に日本の国会に上程される予定の『IR実施法案』とジャンケット事業者許認可にかかわる、最初のテーマに戻ろうと思う。
~カジノ語りの第一人者が、正しいカジノとの付き合い方を説く!~
新刊 森巣博ギャンブル叢書 第2弾『賭けるゆえに我あり』が好評発売中