番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(16)

 繰り返すが、カジノの「売り上げ」とは、バイイン(打ち手によるチップの購入)・マイナス・ペイアウト(ハウスによる払い戻し)の金額を意味する。つまり、一般会計上では、「粗利」に当たる。

 日本ではここをよく理解していない人が多い。それでパチンコ業界18~22兆円の経済規模との比較をしたりする。

 もし同一の会計基準で比較するとしたなら、マカオのカジノの経済規模は、数年前に日本のパチンコ業界のそれを軽く追い越した。

 そしてここは重要だ。その「売り上げ」のほとんどは、ジャンケット・ルームおよびハウス直轄のプレミアム・フロアからくるものだった。マカオの大手ハウスの「売り上げ」の8割近くが、この二者からきた時期もある。

 北京政府による「反腐敗」政策によって、この二者からの「売り上げ」は落ち込んでいる。しかし、それでもまだなおマカオのほとんどのカジノでの「売り上げ」の過半は、ジャンケット・ルームとプレミアム・フロアからのものなのである。

 ジャンケット・ルームとかプレミアム・フロアは、面積的にはカジノのほんの一部でしかない。メガ・カジノの客たちのおよそ99%は、一般フロア(いわゆる「ヒラ場」「ザラ場」)で博奕を打つ。

 ところが、カジノでは、ヒラ場での「売り上げ」が、そのままハウスの収益には結びつかない。

 10万円を持った打ち手が1か月で10万人来るよりも、10億円の「下げ銭」の「ハイローラー」が10人来てくれたほうが、当然にもカジノにとって収益的にはずっとよろしい。

 いや、1万円のお小遣いを携えた客が1か月で100万人来たりしたら、そしてその「下げ銭」を全部負けてくれたとしても、おそらくカジノは収益的には赤字となってしまうのだろう。

 カジノとは、それほど労働集約型の産業だ。

 それゆえ、カジノの経営陣にとっては、どうやって「ハイローラー」たちを、自カジノのジャンケット・ルームやプレミアム・フロアに囲い込むかが、その生死を決するほどに重要となるのである。

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 さてここで、日本政府が1年以内に国会に上程する予定の『IR実施法案』関連の話に戻ろう。

 番外編その2・「日本人のハイローラー」で書いたように、そもそもカジノのVIPルームで見掛ける日本からの大口の打ち手たちには、グレー・ゾーンの住民たちが多い。

 そりゃそうだ。

 毎日地獄の通勤電車に押し込まれ、職場じゃイヤな上司にいじめられ、「死ぬまで働け」とこき使われ、不細工な妻(あるいは夫)や耳から脳みそが垂れ下がっているような娘と息子がのさばる家庭に戻って、コンビニ弁当に毛が生えたようなものを喰う。

 恥も外聞も自尊心も忘れることによって、銀行に振り込まれた手取り月収が27万4400円。

 そんな思いをしてやっと手にした大切な大切なおカネを、丁と出るか半と出るかまったく不明なゲームの一手に賭けられるものじゃなかろう。

 したがって、大手ハウスのVIPルームでしょっちゅう、一手50万円・100万円とベットしている連中は、

1) 怪しげな企業の経営者。(これは多い)

2) 資産家のあほボン・べっちょムスメ。(ティッシュ王子や「石井のサンユーさん」が好例)

3) 金融屋とか詐欺師。

4) ウラ社会でもランクが高い人。

5) スポーツか芸能関係者。

6) まるでそのまま犯罪業。

7) 政治関係および宗教関係。

8) 以上の者たちから接待を受けることが多い仕事。

 といった職種の人たちが、どうしても多くなる。

 カジノでの大口の打ち手には、まともな職種の人たちが居ない、というわけではもちろんない。なにが「まともな職種」であるかの議論は一応措いておいて、でもそういった人たちは、グレー・ゾーンの住人たちの数と較べれば、間違いなく少数派だ。

⇒番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(17)

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PROFILE

森巣博
森巣博
1948年日本生まれ。雑誌編集者を経て、70年代よりロンドンのカジノでゲーム賭博を生業とする。自称「兼業作家」。『無境界の人』『越境者たち』『非国民』『二度と戻らぬ』『賭けるゆえに我あり』など、著書多数。