番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(17)

 ここまで長々と、ジャンケットおよびその関連について、まとまりもなく書き連ねてきた。

 一般客ではなくて、いわゆる「ハイローラー」たちの取り込みが、いかにカジノの収益を左右する死活問題たりうるか、すこしでもおわかりいただけたら幸いである。

 2010年に「ジャンケット排除」を掲げIRをオープンしたシンガポールですら、開業後3年もすれば規制緩和がはじまった。RWS(=リゾートワールド・セントーサ。マレーシア・ゲンティン資本)にジャンケット・ルームが導入されたのである。

「うちはプレミアムのお客さんたちだけで充分」

 と豪語していたMBS(=マリーナベイズ・サンズ。米ラスヴェガス資本)でも、RWSよりすこし遅れて、ジャンケット事業者を入れるようになった。

 確かに大規模カジノは、新規オープンしてから最初の数年間、ハウスが抱える大口顧客リストの打ち手たちだけで、プレミアム・フロアは埋まる。

 埋まるどころか、MBSなどは、満員御礼定員オーヴァーだった。

 シンガポールのPAIZA(LVS社のVIPルームは、世界共通でPAIZAという名を持つ)で打ちたい人たちは、ウエイティング・リストに登録して、空きを待つ状態だったのである。

 しかし、初モノの珍しさも消え、開業3年もすると、客の入りは減りはじめる。

 ラスヴェガスの大手各ハウスが、スポーツやミュージック関係の世界的イヴェントを定期的に開催する理由は、主に「ハイローラー」たちを集めるための「餌」として、なのである。

 そういったイヴェントなどを使うハウスの集客方法もあるのだが、やはり「蛇(じゃ)の道は蛇。「ハイローラー」の供給は、業者に委託するのが、一番安全かつ確実となる。ついでだが、「蛇の道は蛇」という表現は、英語では‘Set a thief to catch a thief’となる。人間なんてなにじんであろうと、そんなに変わるものじゃない。どこでも似たような発想をするのである。

 大手ジャンケット事業者を使えば、前述したように、原則「勝ち負け折半」の契約となり、ハウス側の取り分は減る。しかしそれでも背に腹は代えられなかった。

 おまけに、中間に入るジャンケット事業者があれば、『為替管理法』に抵触するかもしれない怪しげなカネの動きに、何重かのクッションが置けた。そういった怪しげなカネの動きは、ジャンケット事業者およびその関連金融業者がおこなった商行為であり、カジノ側はまったく無関係、と主張することができる。これも大きかったのだろう。

 *        *        *

 昨年(2016年)末に日本国会で『IR推進法』が成立し、本年中には『IR実施法』が国会に上程され、めでたく成立する運びとなるらしい。

 それで、諸般の手続きを経て2022年ごろに、日本初の公認カジノがオープンする、とひとまず仮定しよう。以上は業界で主流とされる「ロード・マップ」だから、おそらくそうなる可能性は高い。

 さて『IR実施法』では、アジア太平洋地域の大規模カジノで、「それ抜きにして語れない」存在であるジャンケット事業者を、どう位置付けるのだろうのか? 

⇒番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(18)

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PROFILE

森巣博
森巣博
1948年日本生まれ。雑誌編集者を経て、70年代よりロンドンのカジノでゲーム賭博を生業とする。自称「兼業作家」。『無境界の人』『越境者たち』『非国民』『二度と戻らぬ』『賭けるゆえに我あり』など、著書多数。