ばくち打ち
第6章第4部:振り向けば、ジャンケット(14)
「不思議なもので、そういうときに限って、負けるんだ。あるいは、ローリングが少ない打ち手たちばかり集まって、経費で足が出たりする」
なぜ、と訊かれても困るのだが、良平の経験ではそうだった。
「持ち込むときは現金でも、勝ったからといって現金で持ち帰るお客さんて、ほとんどいないじゃないですか。デポジットにしておいて、次回のタネ銭とする方が多い」
優子の舌の回りも怪しくなっている。
胸の盛り上がりも揺れていた。
「ところが手持ちのキャッシュが薄いときって、現金を持ち帰りはしないのだが、至急海外の口座に振り込んでおいてくれ、なんていう打ち手が現れるものなんだよ」
実際、良平が経験したことだった。
あれはWYNN MACAUがオープンしてからしばらく経ったころ、2006年の秋だったか。日本の著名な公認会計士が大勝し、スイスの銀行口座に送るよう、良平に指示した。
手持ち資金が不足していて、あの時良平は本当に往生してしまった。業界大手の某ジャンケットからカネを回してもらい、どうにか凌げたものである。
ついでだが、当時はマカオのカジノ経由でスイスの銀行口座を使う日本人は多かった。現在なら、規制当局の審査が厳しくなって、スイスの銀行口座を使う人は、まずいないはずだ。
カリブ海に浮かぶ島嶼国経由か、南太平洋ではヴァヌアツ経由あたりでカネが回っている。不思議なことに、規制が厳しいはずのアメリカ合衆国の自治領であるサイパンのガラパン経由などいうのも増えていた。
「こうしよう。わたしにくれる予定の『のれん代』を、優子さんとジャッキーが立ち上げるジャンケットの初期運転資金としなさい。わたしはその形では受け取らない。不要(プーヤオ)だ」
新型コロナで低迷期といえども、諸投資をどう過少に評価しても、『三宝商会』がため込んできたものは10億円は下るまい。
これは実質的に良平の個人資産だった。しばらく「喰いっぱぐれる」ということにはならない。
「えっ? それでいいのですか」
と驚いた表情の優子。
胸のふくらみだけでなく、もう身体全体が左右に揺れている。
高純度のアルコールは、毛細血管まで浸みこんだようだ。
「タダというわけじゃない。商売になりだしたら、一定の配当を受け取るようにする。つまり、これはわたしからあなたへの投資だ。ちょっと飲み過ぎている。詳細は後日詰めよう」
コニャック・グラスに残った液体を嚥下すると、良平は手洗いに立った。
手洗いから戻ってくると、優子がソファの上でひっくり返っている。
膝上丈のスカートがめくれ、白くて小さな下着が露わとなっていた。
優子でもこういうことがあるのか。
長くて細い脚の合わせ目をちょっといたずらしてみたい気が起きたのは、偽らざるところだった。
しかし、踏ん張る。(つづく)