番外編:カジノを巡る怪しき人々(5)

年3兆円産業の誕生

 以上の理由で、現在のラスヴェガスに、昔の意味での「ジャンケット業者」は入らなくなってしまった。

 その代わり、ハウスに客を紹介し、その「デポジット」から一定の割合をキックバックされる独立した「エージェント」が存在する。

 しかし、大口の「大魚」や「鯨」たちは、事情を知らない初回はどうあれ、2回目のラスヴェガス訪問からは、「ディスカウント」の提供で、ハウスに「一本釣り」されてしまう例が多い。

 独立した「エージェント」に残るのは、大手カジノから「ディスカウント」を提供されそうもない、「中魚」と「雑魚(ざこ)」ばかり。

 独立した「エージェント」が、苦労して集めた大口客が、あっという間にかっ攫われる。トンビに油揚げを掠め取られるごとく。

 大口の顧客を握り続けていくのは、大変だろうな、とご同情申し上げる。

 ただし、以上は「独立したエージェント」の場合だ。

 ちょっとわかりづらいかもしれない。

 しかし、そういう具合に「ディスカウント」の餌でハウスに「一本釣り」された大口客たちが2回目以降のラスヴェガス滞在から使うのも、また「エージェント」なのである。

 ただしこちらのほうは、法人上の登記はどうあれ、じつは「独立」していない。

 ハウスに付属した「エージェント」だ。

 これが、たとえば東京などにある、ラスヴェガス大手ハウスの「マーケッティング・オフィス」と呼ばれるものである。

「井川のアホぼん」事件が発覚して、大王製紙社内につくられた「特別調査委員会」の報告やメディア報道によれば、連結子会社から数十億円の現金が、LVSインターナショナル・ジャパン(つまりラスヴェガス・サンズ社の実質上の東京オフィス)の口座に振り込まれていた、という。

 この「LVSインターナショナル・ジャパン」およびそれに類するものが、(独立した業者ではなく)ハウスに付属した「エージェント」。

 ついでだが、客がデポジットした金額のパーセンテージ・キックバックだけが商売のネタとなる、独立した「エージェント」も、ネヴァダ州カジノ管理機構(NEVADA GAMING CONTROL BOARD)からの正式で厳しい審査を受け、ライセンスを得なければ、ラスヴェガスで活動できない。

妖怪幻妖(ようかいげんよう)・魑魅魍魎(ちみもうりょう)

 こういった「ラスヴェガス大手カジノ事業者の営業システム」における基礎知識すら欠いた、そして「ターン・オーヴァー」と「ロール・オーヴァー」の見境もつかない「カジノの専門研究者」が、日本には存在する。

 またそういった連中が生存できる余地を残すのが、日本におけるこの業界の面白いところなのだろうと思う。

 日本では、2012年1月から始まる通常国会に、通称・カジノ合法化(ゲーミング)法案が上程される予定だ、と聞いている。

 民主党代表選挙や東日本大震災、そして東電福島第一原発事故等で、遅れに遅れてきた法案が、「復興支援」をひとつの目玉として、やっと陽の目をみることになりそうだ。

『ばくち打ち』の連載を開始するにあたり、わたしが日刊SPA!でこの法案に関して書いた記事がある(http://nikkan-spa.jp/bakuchi/19957)。参照していただきたい。

 カジノ合法化法案が国会で成立すれば、すくなく見積もっても、およそ年3兆円産業の誕生だ、とわたしは推察する。

 膨大な利権だ。

 この膨大な利権にすこしでも喰い込めれば、巨額な富が得られる。

 この分野に関する社会一般の知識不足につけ込むように、もう、さまざまな妖怪幻妖・魑魅魍魎が、巨額利権を求め、永田町や霞が関を彷徨する。知識も経験もない舌先三寸の輩(ルビ・やから)が跋扈する。

 まさにそれゆえ、わたしのごとき(オペレーター側ではなく)打ち手側の人間が、カジノ業界の基礎知識を欠いた「専門家」に対し、ラスヴェガスでの制度や「マカオにおけるジャンケット」のレクチャーをしなければならないのだろう(笑)。

でも、考えてみれば、笑うところじゃない。哀しむべきことである。

VIPフロアにある小部屋群

 マカオ大手ハウスの、いわゆる「VIPフロア」に入ると、まず気づくのが、そこがいくつもの小部屋に分割されている点だ。

『ばくち打ち』第二章でよく説明したと考えるが、ハウスの提供するプログラムで打てる、いわゆる「プレミアム・フロア」は、このVIPフロアの中でも2~3室を構成しているにすぎない。

 2~3室といっても、そこはそれマカオのことだから、たとえばLVS系ヴェネシアン・マカオのプレミアム・フロア「PAIZA」ひと部屋で、ソウルにあるウォーカーヒル・カジノの平場(ひらば=一般客が入れるエリア)全体と同じくらいの大きさになってしまう。

 VIPフロアに存在するプレミアム・フロア以外の小部屋群は、すべてジャンケット・オペレーターと呼ばれる業者たちが営業をおこなう部屋、つまり「ジャンケット・ルーム」である。

 マカオ大手カジノの収益の70%以上は、この「プレミアム・フロア」と「ジャンケット・ルーム」が生み出す。月間入場者数が、ひとハコ当たりすくなくとも数十万人ある平場からの収益は、相対的に微々たるものなのだ。

(つづく)
⇒番外編:カジノを巡る怪しき人々(6)「賭博目的のツアーに特化された旅行会社」

PROFILE

森巣博
森巣博
1948年日本生まれ。雑誌編集者を経て、70年代よりロンドンのカジノでゲーム賭博を生業とする。自称「兼業作家」。『無境界の人』『越境者たち』『非国民』『二度と戻らぬ』『賭けるゆえに我あり』など、著書多数。